サッカーW杯カタール大会のグループリーグE組、日本は12月1日(日本時間2日4時)、にスペイン相手の最終戦を迎える。インターネットテレビ局『ABEMA』ではW杯日本人最多の4得点を挙げている本田圭佑氏(36)が日本戦の解説を務め、好評を得ている。その放送席の影の立役者ともいうべき存在が、実況を務めるテレビ朝日・寺川俊平アナウンサー(34)だ。スポーツ解説者の分析記事を頻繁に執筆している松木安太郎研究家でライターの岡野誠氏が、寺川アナの“解説・本田圭佑の引き出し方”を解析した。
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放送席の主役が解説者だとすれば、実況アナは脇役になる。今大会、解説の本田圭佑氏はピッチの現状を素早く的確に分析し、具体的な改善策を提案している。その上で、時に「ファールやろ!」「PK!PK!」と叫ぶ。論理と感情が見事なまでに融合している印象で、視聴者を魅了している。
その本田氏の良さを、巧みにアシストしているのが、寺川俊平アナだ。アナウンサーの重要な役割の1つとして、解説者の言葉をいかに引き出すかがある。心地良い実況だけでなく、聞き手としての能力も求められているのだ。
ドイツ戦やコスタリカ戦の中継を聞くと、寺川アナの話の運び方によって本田氏の持ち味がより出やすくなっている。5つのキーワードとともに、例を挙げながら見ていこう。(※以下、2人の言葉は読みやすくするために、一部省略している場合もあり)
【1】具体的に深掘りする質問
【例1】ドイツ戦の前半0分
本田氏:見てもらったらわかるんすけど、日本(は親善試合の)カナダ戦から守備の立ち位置めっちゃ修正してますね。
寺川アナ:どういったところでしょう?
本田氏:ラインが高いです。(FWの)前田(大然)さんめちゃめちゃ前線から追ってるんで、結構強気で行くと決めている采配ですね、今日。
【例2】コスタリカ戦の前半25分
本田氏:(コスタリカに)引かれたら、そんな簡単に崩せるものじゃないんで。どうするか。これは森保(一)さん悩むぞ。
アナ:システムを変えるべきか、それとも攻め手を変えるべきなのか。本田さんだったらどうしますか。
本田氏:めちゃむずい。
アナ:難しいですか。
本田:5バックね、むずいんすよね。僕やったら、田中(碧)さんとかガク(柴崎岳)とか、パス出せる選手をボランチに置くかもしれないです。なんでかというと、そこから鎌田(大地)さんとか守田(英正)さんにくさびをバンバン当てられれば、多分チャンスになると思う。3バックの前で、フリーで誰かを前向かせたい。サイド、サイドが結構厳しくなっているんで。
試合中、寺川アナは【例1】のように本田氏に「どういったところでしょう?」などの質問を頻繁にしている。具体的な言葉を促すことで、本田氏の考えがより鮮明に伝わってくる。【例2】では本田氏も戦術に悩む中で、「システムを変えるべきか、それとも攻め手を変えるべきなのか」と選択肢を出して思考の手助けをしている。
2人のやり取りを聞いていて、私は1980年代にテレビ朝日のプロ野球中継で野村克也氏とコンビを組んでいた石橋幸治アナウンサーの話を思い出した。1990年代にヤクルトを4度のリーグ優勝に導いた知将は、投手の配球を予測する『野村スコープ』を導入してズバズバ当てるなど画期的な解説をしていた。石橋アナに取材した時、「野村さんは『なぜですか?』とプレーや作戦の根拠を聞くと、どんどん話が膨らんだ。知的好奇心を刺激されて楽しかったですね」と語ってくれた。おそらく寺川アナも「どうして」「どうすれば」と深掘りすると、本田氏の考え方がより具体的に聞けるため、同じような感覚を抱いているのではないか。