お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹氏は、『火花』『劇場』『人間』などの著書がある作家としての顔のほかに、自由律俳句を詠む俳人の顔も持つ。せきしろ氏との共著で句集『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』『蕎麦湯が来ない』を発表、自身のオフィシャル・コミュニティ「月と散文」でも自由律俳句を発表し続けている。
そんな又吉氏の愛読書の一つが、『尾崎放哉全句集』(ちくま文庫)だ。好きな本を紹介するエッセイ集『第2図書係補佐』(幻冬舎よしもと文庫)でも、この句集を巻頭で紹介している。
没後90年余になるこの自由律俳人の魅力はどこにあるのだろうか──。(以下、金子兜太・又吉直樹『孤独の俳句 「山頭火と放哉」名句110選』(小学館新書)より抜粋・再構成)
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尾崎放哉(本名・秀雄)は1885(明治18)年1月20日、鳥取県の邑美(おうみ)郡吉方(よしかた)町(現在の鳥取市吉方町)に生まれた。名門士族の跡取りで、父は地方裁判所の書記長、母は藩医の娘だった。
その経歴も、まさに地方出身者のエリートコースそのものだった。高等小学校から飛び級で鳥取第一中学に入り、東京の第一高等学校(一高)、東京帝国大学へと進学。帝大卒業後、通信社を経て東洋生命保険に就職し、8歳下の遠縁の女性と結婚もした。
しかし、そこからは下り坂を転げ落ちるように挫折を繰り返していく。