師走に入り本格的な冬の寒さを感じられるようになった。暖かい部屋で楽しみたい、おすすめの新刊4冊を紹介する。
『方舟』/夕木春央/講談社/1760円
山奥で廃虚となった地下建築に迷い込んだ柊一や翔太郎ら7人の仲間達。地元の3人家族も加わるが、その夜地震で地上への出口が塞がる。そして第一の殺人。地下水の上昇で1週間後の溺死が避けられない中、彼らは犯人を特定し、その人間を生け贄にして助かろうとするが……。この密室殺人の最大の謎は動機。最後のドンデン返しであなたは凍える? それとも哄笑する?
『光のとこにいてね』/一穂ミチ/文藝春秋/1980円
医者の家のお嬢様と団地の子として知り合った小2の結珠と果遠。週に1度の遊びの時間は突然終わりを迎える。再会は結珠の通う名門女子高に果遠が特待生として現れたこと。しかし1学期で果遠は消える。本州最南端の町でみたび出会う29才で既婚の2人。「私」と「わたし」が交互に語る輪唱形式の純愛譚で、周囲の男達も揃って感受性豊か。ラストの光の輝度に浄化される。
『忘れる読書』落合陽一/PHP新書/1100円
古典を読んでも疑問がないと“これが名著か”で終わる。本書にこうある。本は「自分の文脈」で選ぼうと。父に「ニーチェを読んでいない奴とは喋れない」と言われてニーチェを読んだ中学時代、速読講座に通った高校生時代、教授に「岩波文庫を100冊読みなさい」と言われて実践した大学時代。自分の身になった27冊を語る。氏の文脈は近代の超克とそれを促すテクノロジーのようだ。
『旅ドロップ』/江國香織/小学館文庫/572円
江國さんが自分の中の旅成分を語る。小学生で父に連れて行かれた新宿タカノ・ワールドレストランでの異国体験、トーマス・クックの時刻表片手に女友達と旅した20歳の時のヨーロッパ。再訪の地ではNYの早朝のパブで飲むビールなど、そこに置いてきた自分と再会するためのルーティンも。勝手の分からない百貨店に行くことは、旅と同じとする感慨に激しく首を縦に振る。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年12月15日号