1年の中でも特に忙しくなる師走。ちょっとした息抜きに、暖かい部屋で読書などいかがですか? この時期におすすめの新刊4冊を紹介します。
『私のことだま漂流記』/山田詠美/講談社/1815円
初めて書き上げた小説『ベッドタイムアイズ』でデビューした著者。鮮烈な書き出しと完璧な文体に興奮した感動は今も忘れられない(男達の反発は理解不能だった)。「小市民的な会社員の娘」の律儀さで唯一無二のストーリーを紡いできた著者が、洋楽、サガン、漫画家挫折、夜遊び、福生、恋人の事故死、米軍人との結婚と別れ、先輩作家達との交流などを「小説」として語り尽くす。
『タングル』/真山仁/小学館/1870円
喝采を送る。いまいましい老害を退治する物語に(自分も老害ですけどね)。光量子コンピューター開発で一歩先行く早乙女教授に告げられた科研費減額。シンガポールの誘いで研究室を移し、潤沢な予算でブレイクスルーを果たすが、両国の“国益因業ジジイ達”が暗躍し始め……。国益の反対語は普遍的な理念。理念なき国益は国家の品位を落とすのだ。
『猫を棄てる 父親について語るとき』/村上春樹/絵・高妍 文春文庫/726円
親の死後もっと話を聞いておけばよかったと後悔する。著者の場合は父の所属連隊名を誤解し、詳細を知るのが重かった。血生臭さで評判の連隊だったから。父90才の時に和解、没後に父の足跡を辿る。ぐっとくるのは父を歴史に還し、歴史の本質は「引き継ぎ」にあるとする点。俳人でもあった父は開戦前夜に詠んだ。「鹿寄せて唄ひてヒトラユーゲント」。著者の好きな映像句だ。
『この世界の問い方 普遍的な正義と資本主義の行方』/大澤真幸/朝日新書/1001円
コロナ禍やウクライナ戦争、「台湾有事は日本有事」など、バッドニュースの多かったこの2年半。これらの出来事を論じる時事評論集で、副題の「普遍的な正義と資本主義の行方」という視座で世界を整理する。同じナショナリズムでも、ロシアのそれ(西への劣等感)、日本のそれ(国益一辺倒)、中国のそれ(中華思想)と発生源が違う。米中の覇権争いが日本の未来を決めそうだ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年1月1日号