2022年もまもなく年の瀬。新しく迎える年がよい年になるよう、静かに振り返る時間をとってみませんか。『比叡山大阿闍梨 心を掃除する』を出版した比叡山の光永圓道大阿闍梨が、心を整えるため最長の教え「山家学生式(さんげがくしょうしき)」について教えてくれました。
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「山家学生式」とは
師走には、まず「終わりよければすべてよし」の心持ちで、この一年を振り返りたいものです。はるか昔のご先祖さまからいまにいたるまで、日本人は「言魂」という考え方を大切にしてきました。言葉や文字を正しく丁寧に扱えば、その言葉や文字の意味が、心に染み入ってきます。汚い言葉遣いは口論を呼び、感謝の言葉は親愛の情を育むのです。
天台宗を開いた伝教大師さま(最澄)は、僧侶の心得を説くために『山家学生式』を著しました。「国宝とは何物ぞ」ではやや堅いイメージかもしれませんが、本質的には「私たちがいちばん大切にしなければならないものはなんでしょうか」という、シンプルな問いかけです。伝教大師さまは「道心を持つ人」こそ素晴らしいとおっしゃいました。
この「道」もまた言魂を感じさせます。自分の「為すべき事を為す道」は、「善く生きようとする道」でもあるでしょう。言葉を染み入らせるために筆を執り、手づから心を込めて書くことで、気持ちを新たにしませんか。
慈悲のための入り口
『山家学生式』には、心を整えるための方法が具体的に示されています。骨の折れる仕事(悪事)はなるべく自分自身で、誰にでもできる仕事(好事)は他の人に委ねること。頑張りすぎる傾向にあるかたは、すべての仕事を自分ひとりで抱え込み、悩んでしまいがちです。
この傾向は、家事や仕事にも通じるでしょう。完璧な家事を追求するあまり、パートナーやお子さんの中途半端な手伝いに腹を立ててしまうお母さまがたは少なくないといわれます。しかし、時には「できないことは、できないでよろしい」と、手放してしまう瞬間があってもよいと思うのです。
任せた相手が、あなたのように完璧にこなすことができなくても、まずは信頼して任せることこそが、大切な皆さまとあなた自身を成長させる糧になるのではありませんか。「慈悲」とは、親子においても、ご近所づきあいにおいても、また仕事場においても「信頼と許しの心」を入り口として実現すべき目標です。
【プロフィール】
覚性律庵 住職 光永圓道(47才)/1990年に得度受戒、2000年に延暦寺一山・大乗院住職に。2009年、千日回峰行を満行し、北嶺大行満大阿闍梨となる。現在、大乗院住職、覚性律庵住職。今年11月、仏門の修行と千日回峰行の荒行を経て到達した「心地良く生きるための作法」を説いた『比叡山大阿闍梨 心を掃除する』を出版。
撮影/黒石あみ
※女性セブン2023年1月1日号