こんな意外なところから名優が出てくるなんて、誰も想像できないだろう。11月下旬の日中。東京・渋谷区内の公衆トイレから、ただならぬオーラを発するブルーのつなぎ姿で掃除道具を抱えたナイスミドルが現れた。ベテラン俳優の役所広司(66才)である。
実はこれ、来年公開予定の主演映画のロケの一コマ。世界的に有名なドイツ人映画監督のヴィム・ヴェンダース氏(77才)がメガホンを握る、有名建築家らが改修した渋谷区の公共トイレを題材とした作品だ。
今年5月に同監督と記者会見に臨んだ役所は、これまで華麗なる芸歴を歩んできたにもかかわらず「40年この業界にしがみついてきて良かった。世界中のお客さんに日本という国を紹介したい」と、無邪気に喜ぶほどにやる気に満ち溢れていた。
銀幕だけでも『Shall we ダンス?』、『失楽園』、『うなぎ』などヒット作は数えきれない。1996年からは7年連続で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞するなど、名実ともに日本を代表する俳優だ。もはや、名声で得るものはない境地だからだろうか。「今後は社会的意義のある仕事がしたい」という思いで、今作に臨んでいるという。
ある芸能関係者は「昨年の『すばらしき世界』では、人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯として、世知辛い世の中で必死に社会復帰を試みる難役で主演。西川美和監督のメッセージを生々しく表現して絶賛されました。ご本人は『芝居をうまいと思ったことが1度もない』と謙遜されますが、誰もが一緒に仕事をしたがる名優です」と話す。
私生活では、40年前の無名時代に結婚した5才年上の元女優の妻さえ子さんが、所属事務所の社長を務めていて、夫をプロデュースし続けている。ある映画会社の幹部は「奥様が敏腕経営者で、都内の閑静な高級住宅街には高級料亭と間違えそうなほどの広い日本庭園付きのご自宅を構えていらっしゃいます。約20年前に購入されてからは、隣の土地も買い増しして、さらに素晴らしい豪邸にされた。ほかにも渋谷区に4階建てビルを所有するなど、不動産だけで軽く15億円以上だとか。俳優界屈指の不動産王としても知られています」と話す。名声だけでなく富も得ているだけに、もう意義を見出せる仕事だけを選んで出演しているということなのかもしれない。