フィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルで日本勢が初の3種目制覇を達成するなか、北京五輪で最も注目を集めた“ロシアの至宝”の周辺が再び騒がしくなってきた。北京五輪の期間中にドーピング問題が発覚したカミラ・ワリエワ(16、ロシア)について、世界反ドーピング機関(WADA)は11月、4年間の資格停止処分や2021年12月からの成績取り消しを求め、スポーツ仲裁裁判所(CAS)への提訴に踏み切った。フィギュアスケートを取材してきたスポーツライターが語る。
「WADAは早期解決を訴えていますが、時間がかかるとの見通しです。現在、ロシアの選手はウクライナ侵攻による制裁でGPシリーズなど国際大会にも出場できない状態です。そのため日本勢にとっては好機となりGPシリーズで初の表彰台を続出させましたが、ロシアはそのような状況をものともしていません。
国内でロシア版のGPシリーズを開催し、ワリエワは第1戦と第3戦で優勝。12月に開催されたジャンプに特化したロシアのジャンプ個人選手権でもワリエワは優勝しています。出場を表明している12月末のロシア選手権は、ロシア勢が不在の他の国際大会よりはるかハイレベルになるとみられていますが、ワリエワは優勝の筆頭候補とされています」
北京五輪でドーピング問題が発覚した後のワリエワは個人戦でミスを連発し、コーチに叱責されながら呆然と涙を流す姿が何度も報じられた。当時15歳の少女には過酷すぎる状況だと心配されたが、本人のインスタグラムからは充実した1年を過ごしていた様子が伝わってくる。前出のスポーツライターが続ける。
「Instagramには国内大会やアイスショーに出場した様子、練習で4回転ジャンプやトリプルアクセルを成功させる動画も公開しています。母親との2ショットや水着姿でマリンレジャーを楽しむ動画なども多く投稿しており、ドーピング問題の影響をまったく感じさせない明るい表情をしています。
懸念されていたコーチとの関係も良好のようで、様々な“雑音”を気にしない余裕が感じられます」
北京五輪で起きたワリエワのドーピング問題も後押しし、7月には国際スケート連盟が冬季五輪に出場できる選手の年齢制限を15歳以上から17歳以上に変更した。
「年齢制限の引き上げにはロシアの指導者たちから反発の声があがったように、10代前半の有望選手が多い一方、選手生命が短く“使い捨て”と揶揄されるロシアのフィギュア界にとっては痛手です。ただ、これはワリエワにとっては朗報とも言えます。
今もロシアでは続々と10代前半の次世代の選手が出てきていますが、2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪には17歳以上の選手しか出場できないため、代表争いの最大のライバルとなる15~16歳の選手はふるい落とされます。
早すぎる世代交代を繰り返してきたこれまでとは様相が変わるでしょう。もちろん、その前にドーピング問題と、ロシアによるウクライナ侵攻がどのように解決するかという壁がありますが、ワリエワにとっては希望が持てる状況といえるでしょう」(同前)
※週刊ポスト2023年1月1・6日号