その年、カミナリは、2年連続で決勝の舞台に勝ち進む。ところが、そこで大きな傷を負った。前年に続く2番目という不利な出番順だったことも災いし、思ったようなウケを得られず前年を下回る9位に沈んだ。
大会後の番組収録等では明るく振る舞っていたたくみだったが、深夜1時過ぎ、ようやくすべての仕事を終えてタクシーに乗り込むと、ふいに涙が込み上げてきた。
「その1年は勢いもあって、正直、どこの舞台に出てもスベったことがなかった。なので、優勝できるかなとか思っていて。そうしたら、その大舞台で、その年、いちばんスベった。それがめっちゃ悔しくて……。M-1って、なんでこの点差になるのかが、わからな過ぎる。だから、またがんばろうと思っても、何をがんばればいいの? って。このときは、ただ、暗闇の中に突き落とされたような感覚でしたね」
この年、ショックだったのは点数の低さだけではなかった。審査員の上沼恵美子から「あのどつきはいるんやろか。叩いてから突っ込むというのは、いらないと思う」と強烈なダメ出しを食らった。たくみが言う。
「上沼さんがそう思うなら、一般のお客さんもそう思ってるんだろうな、って。たぶん、中身を変えても、また頭を叩く芸をやってるなとしか思われてないんでしょうね」
M-1は鮮度が高い組ほど有利だ。出場回数を重ねれば重ねるほど観る者の期待値は上がり、勝ち目は薄くなる。M-1において3回以上、決勝に進出して優勝したコンビは笑い飯とチュートリアルの2組しかいない。
2017年以降、エントリー期限が迫るたびに、2人の間で出るか出ないかの綱引きになった。2018年は、初めてエントリーを見送った。そして、2019年は出場し、準決勝で敗れる。翌年はまた欠場。2021年と2022年は久々に2年連続で出場し、いずれも準々決勝で敗退した。
出る年と、出ない年。特に大きな理由があるわけではない。2人のトータルの出場欲が、だいたいその程度なのだ。
M-1では、M-1仕様のネタでなければ勝てないとされている。目の肥えたファンと審査員をうならせるには何よりも目新しさが要求される。
だがカミナリは2022年、「古今東西ゲーム」という手垢まみれのテーマをあえて選び、切り口の斬新さで勝負した。だが、そもそもの設定が凡庸だと、やはりM-1で勝ち上がるのは難しい。まなぶが言う。
「僕らは今、漫才に慣れてない人にも笑ってもらえるようなネタ作りをしているんです。それでもM-1の準々まで行けたので、そこは満足してるんですよ。ベタと言われるネタで勝負しているところもカッコいいなと思ったり。それに、M-1では落ちましたけど、これからもずっと使えるネタが一つできたので」