普段よりも美しく可愛らしく魅力的に見せることを「盛れる」と言い、自撮りや風景、建物などの写真が実物よりも美しく作成できたときに使われている。2009年のケータイ流行語大賞に「盛る・盛れる」が選ばれたときは、髪にボリュームを持たせてセットする、派手にするという意味で使われていたが、その意味が広がり、今では写真、とくに自撮りを盛らないことが考えられない人もいるほどだ。ライターの森鷹久氏が、加工で盛ることが普通になりすぎたことで起きているトラブルについてレポートする。
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「加工ばかりしていないで、普通の写真を残しておけば良かった」
そんな高校生の”後悔”を報じた「高校生新聞オンライン」の記事(2022年11月14日掲載)が注目を集めている。記事を書いた男子高校生は、中学時代の思い出写真が加工されたものばかりで、「お互いの元の顔が見れなくなってしまいました」と悔いを述べ、加工技術の良い面を指摘しつつ「上手に活用していくことが大切」と結んでいる。記事を読んだ、千葉県内の公立中学校教諭・坂本駿輔さん(仮名・30代)は、こうした声がやっと生徒の側からも出てきたということに安堵したというが、現実は「もっと深刻」と嘆く。
「修学旅行に行った際、同行したカメラマンが卒業アルバム用に生徒を撮影するじゃないですか。それで後日、学校にばーっと張り出して、欲しい写真があれば購入してください、というのをやるんですが、その張り出された写真の数枚が、誰かに持ち去られてしまったんです。最初はいたずらか、はたまた、好きな子が映っているから誰かが盗ったとか、そう考えたんですね」(坂本さん)
ところが、その所在不明になった写真について調査をしたところ、無くなったもの全てに、ある女子生徒が映り込んでいることが判明した。「女子生徒のことを好きな男子が持っていったのか」という疑いをますます深めた坂本さん。気分が悪いだろうということで、フォローのために女子生徒を呼び出すと、予想だにしなかった答えが返ってきたという。
「映っていた自分の顔が変だった、嫌だったから、自分で写真をはぎ取った、そう告白し泣きながら謝ってきたんです。別に、誰かにからかわれたとか、そういうことでも無かったみたいで、あくまでも自分がそう思ったから。女子生徒は明るく人気者で、学校外のプライベートではスマホを使ってSNSへの投稿も頻繁に行っているような子。普段、SNSに写真を上げるときは、自身が納得するような加工をするんだと話してくれました。とはいえ、無断で写真を持って行くのは良くないと伝えました。まさかの結末でした」(坂本さん)
別の生徒からも、加工をしていない写真は「恥ずかしい」という意見が続出し、生徒が希望しないプリントは掲示から取り下げるなどして対応したが、そうなると困るのが卒業アルバムはどうするか、ということだ。
「何人かの生徒は、無加工写真はそもそも撮られたくないし見られたくないと言いだし、本当に困りました。一生残るものだから、といっても、逆に一生残るから嫌と反論されたら、返しようがない。カメラマンさんがカメラを向けても、逃げたり顔を伏せたりするんです」(坂本さん)