慌ただしい年末年始だが、一息入れることも大切。そんなときには、読書でもしてリフレッシュしてみては? おすすめの新刊4冊を紹介する。
『憐憫』/島本理生/朝日新聞出版/1540円
芸能界でくすぶる26才で既婚の「私」(沙良)は出会い系バーで柏木と劇的に出会う。芸能情報に疎く芸能人に欲情することもない彼に沙良は“安息の地”を見いだすが……。題名から「可哀想ってことは惚れたってことよ」(夏目漱石の名訳)的恋愛譚かと思いきや、不安や怒りで膨れた不安定な20代女性の自己回復の物語。謎めいた柏木のベールの剥がれ方に苦い笑いがこみ上げる。
『教誨』/柚月裕子/小学館/1760円
我が子と近所の女児を殺めたとして死刑になった響子。遠縁の香純は青森の菩提寺で響子の納骨を断られたのをきっかけに彼女の“生”を探し始める。香純と響子の章で構成され、特にいつ刑が執行されるかわからない響子の章の緊迫感には圧倒される(やっぱり死刑制度には反対だ……)。教誨師とは死刑囚を訪ねて心の支えになる宗教者のこと。響子の真の教誨師を巡る物語だ。
『この父ありて 娘たちの歳月』/梯久美子/文藝春秋/1980円
著者の贅肉のない、それでいて情を尽くした文章には毎回引き込まれる。軍人の父の惨殺場面を目撃したシスター和子、加計呂麻島の養父を慕い続けた島尾ミホ、角川書店創設者の父と、その葬儀を欠席した辺見じゅん、石工の父と『苦海浄土』の石牟礼道子。娘が父を書くことは「歴史が生身の人間を通過していくときに残す傷について書くことでもあった」という視座が感動的。
『風神雷神』/原田マハ/PHP文芸文庫/上巻990円/下巻968円
国宝の『風神雷神図』を描いた俵屋宗達は生年も没年も不明。桃山時代から江戸初期(16世紀末〜17世紀初頭)に活動した。西洋には同時期、バロックの巨匠カラヴァッジョがいた。この二人が実は会っていたという壮大な“奇想”小説で、接着剤になるのはキリシタン大名がバチカンに送った天正遣欧少年使節。史実とフィクションの混合が絶妙で、歴史とアートの旅が楽しい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年1月5・12日号