今季はヤクルト・村上宗隆が、プロ野球界の主役にステップアップした年だった。日本記録の56本塁打を樹立し、22歳と史上最年少で三冠王を獲得した。一方、その同世代である広島・中村奨成は──。
さかのぼること5年前、2017年のドラフト。村上は清宮幸太郎(日本ハム)の「外れ1位」でヤクルトに入団する。同世代の主役は清宮、安田尚憲(ロッテ)、中村の「高校ビッグ3」だった。早実で史上最多の高校通算111本塁打をマークした清宮に高校生最多タイの7球団が競合。中村には広島と中日の2球団が1位指名した。村上と安田は最初の1位指名で声が掛からなかった。中村は抽選の結果、広島へ。
それから5年。地元・広島出身のスター選手の獲得に将来を嘱望されたが、伸び悩んでいる。今季は27試合出場で打率.193、0本塁打、5打点。さらに、週刊文春で女性を妊娠させ、中絶を迫っていたことが報じられ批判の声が殺到。「トレード放出論」が報じられる事態となった。他球団のスカウトは、こう振り返る。
「中村は投げる、打つ、走る。全ての野球センスが球界屈指。今まで見てきた選手たちの中でもモノが違った。ウチも1位指名するか最後まで迷った。森友哉(オリックス)のような球界を代表する捕手になる可能性は十分あったよ。村上とだいぶ差をつけられてしまったが……高校時代に見せた輝きを考えると、このまま消えるのはもったいない」
中村の名前が全国区になったのは、広陵高3年夏に出場した甲子園だった。3試合連続アーチ、1試合2本塁打を2度マークするなど、準決勝までの4試合で6本塁打を記録。1985年に清原和博(PL学園)が樹立した1大会の個人最多本塁打記録を32年ぶりに更新した。
「ホームランバッターという印象ではなく、芯に当てるのがうまい。あの打ち方は天性の才能でしょう。教えられて身につくものではない。強肩強打に加えて俊足で、プロの世界でトリプルスリーを狙える逸材だった。ミート能力でも高校時点では村上に引けを取らなかった」(前出・スカウト)
広島では将来の正捕手として期待されたが、信頼を得られなかった。出場機会を増やすために外野にも挑戦。2021年は39試合出場で打率.283、2本塁打、5打点をマーク。さらなる飛躍を期待された今年は開幕1軍入りこそ果たしたが、代打で結果を残せず1軍定着できない。捕手での出場へこだわりを口にしていたが、先発マスクはわずか5試合にとどまった。