「あの頃の私はまだ二十歳そこそこで、自分の人生でこんなにもたくさん、この曲を歌うなんて想像もつかなかったです」──今年、28年ぶりにNHK紅白歌合戦に出場する篠原涼子。初出場の時に歌った曲のセルフカバー『恋しさと せつなさと 心強さと 2023』でステージに臨む彼女の撮り下ろしインタビューが「週刊ポスト」で実現した。1994年にリリースされ、社会現象ともなったメガヒット曲について、篠原が感慨深げに振り返る。
「幼い頃から歌手になりたいと憧れて芸能界へ入って、でもソロでは勝負ができなくて。もがく日々に巡り合い、初めて自分の曲をいただけたと心が震えたのが、この曲でした。当時はまだ“『恋しさと~』を歌っている子”という以外は目立ったお仕事がなくて、この出会いがなかったらソロで歌う夢は叶わなかったと思います。
話題になって全国いろんな場所で歌わせていただいた時は感動が止まらなかったなとか、急に忙しくなって寝る時間もなくなったのは大変だったけど嬉しかったなとか、自分の人生のひとときを貴重な時間に変えてくれたこの曲には感謝しかありません」
1994年当時、『恋しさと せつなさと 心強さと』は劇場版アニメ『ストリートファイターII MOVIE』の挿入歌として起用された。ストリートファイターシリーズが今年で35周年を迎え、来年発売の『ストリートファイター6』の日本イメージソングとして同曲が再び選ばれたことで、小室哲哉がリアレンジして篠原が歌い直した『恋しさと せつなさと 心強さと 2023』をデジタル・リリース。今月にはMVも公開され、その中で小室との再会シーンも盛り込まれた。
「事前の打ち合わせや“作り”は一切なくて、再会の瞬間は完全なドキュメントです。ひさしぶりで何を話したらいいんだろうと思ったけれど、いざお会いしたらおしゃべりが尽きなくて(笑)。小室さんは全然、変わらなかった!」
小室哲哉が篠原涼子を抜擢した理由
お互いを見つけてほほえみ合うふたりの姿とあわせて、MVにはリュウや春麗など、ストリートファイターシリーズの歴代映像も登場する。
「実は小室さん、ライブハウスで私を見かけて“春麗ぽい子がいる”って、抜擢してくださったんですって。そんな背景があったなんて、先日うかがうまで知りませんでした。若い頃は力強さを押し出していましたが、今回のセルフカバーでは強くなりたいと突き進むだけじゃなくて、内に秘めた芯の強さや“自分が抱えている何かを護るために私は戦うんだ”という、立ち向かう強さも表現できたらいいなって。戦う春麗も自分なりに描いて歌ってみました」
大晦日の紅白へ向けての思いについても、こう語った。
「カラオケで必ずリクエストされて『恋しさと~』は歌い続けていましたが、歌手活動を続けることは叶わなかった。もうね、ずっとずっと……、歌をやりたかったんです。紅白のリハーサルでは、お客さんに歌を聴いていただく時はこんな幸せな気持ちだったなと、胸がいっぱいになりました。初出場では緊張感と慌ただしさに右往左往するばかりで記憶がちょっと飛んでいますが(苦笑)、今回は28年分の人生経験を重ねた大人の篠原涼子として、しっかりと舞台に立ちたいです」
本番へ向けてボイストレーニングにも精を出す。夢の舞台へ導いてくれた大切な楽曲に恥じないよう、「今ある精いっぱいの自分で、見てくださっている皆さんへ届けたい」と、意気込んだ。
◆撮影/中村和孝 取材・文/渡部美也