クリスマスイブ前日の12月23日、首相官邸に近い高級ホテルでマスコミ完全シャットアウトの“厳戒態勢”のなか、ある政治資金パーティーが開かれた。「岸信夫君と明日の日本を語る会」と題するセミナー形式のパーティーだ。
岸信夫氏といえば言わずと知れた故・安倍晋三元首相の実弟であり、菅義偉内閣、岸田文雄内閣で防衛相を務めた後、体調悪化が伝えられて今年8月の内閣改造で退任、現在は総理補佐官の任にある。
一時は政界の名門「岸・安倍家」の3人目の総理候補と期待されていたが、さる12月11日に地元・山口県岩国市で開かれた後援会の会合で「病気が長引いてご迷惑をかけた。次の衆院選は信千世に譲りたい」と体調悪化を理由に事実上、今期限りでの引退を伝え、長男で秘書の信千世氏を後継者に指名したことが報じられた。
12月23日に開かれたパーティーは、引退を表明したとされる岸氏が久しぶりに姿を現わすとあって新聞・テレビなどの記者が会場に集まったが、取材はNG。岸氏は車椅子で会場入りし、来賓の高市早苗・経済安保相、萩生田光一・自民党政調会長、下村博文・安倍派会長代理らが席についてセミナーが開始されると取材陣は会場フロアから閉め出された。
1時間半ほどのセミナーを終えて、出てきた参加者の1人が様子を語ってくれた。
「講師の大学教授が中国問題について話す真面目なセミナーでした。後継者の信千世さんも登場するかと思ったら、姿は見えませんでした。ひょっとしたらどこかにいたのかもしれませんが……。
それでも、岸先生は挨拶の中で信千世さんについて『みなさんが納得する形で息子に譲ろうと思う』というようなことを言っていましたね。岸先生ご本人は体調がすぐれないようで、呂律が回らず、口調もたどたどしかったのが気になりました。それを気にしてか、動画を撮影していた参加者が注意されるひと幕もありました」
パーティーの会費は2万円。案内状には「飲食の提供はございません」と書かれていた。出席者への飲食の提供がなければ経費は安上がりで、いわばパーティー券収入が“丸儲け”となる資金集めだ。
だが、引退を決意した岸氏が、なぜ、そこまでして政治資金を集めようとするのか。岸氏は引退を伝えた際、「任期はしっかり務めたい」と説明したというが、岸氏の後援会会長は朝日新聞の取材に、「体調の回復が難しいため決断したと思う」「早期に議員を辞職し、補欠選挙が実施される可能性もある」との見通しを語っており、同紙は、岸氏が来年3月15日までに議員辞職した場合、4月に実兄の故・安倍氏の山口4区と岸氏の山口2区のダブル補選が行なわれる可能性もあると報じている(12月16日付朝日新聞デジタル)。
現職議員の岸氏が政治資金パーティーを開くことは法的に問題はないとはいえ、国民からみれば、事実上引退表明した政治家が資金集めに精を出しているのは納得がいかないのではないか。政治資金を監視している上脇博之・神戸学院大学法学部教授はこう指摘する。
「自身の政治団体によるお金集めは、自身の政治活動のために行なうものです。岸信夫氏は12月初頭に今期限りの引退を表明しており、だとすればこのパーティー、つまりお金集めは矛盾します。
もちろん衆院議員の任期はあと3年ありますが、引退の理由が体調不良であるなら、体調の限界で辞任の可能性も高いということです。そういう状況であれば、自身の政治団体をどうたたむかの作業を始めるタイミングなのに、政治活動のためのお金を集めている。明らかに矛盾します。
政治資金規正法の『政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行なわれるようにするため』との規定に従い、なぜこのタイミングでお金集めをしたかを説明する責任が生じると言えるでしょう」