1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、競馬人にとっての一年の計についてお届けする。
* * *
その年最初の中央競馬が開催されるのはほとんどが1月5日。ジョッキー時代、この日に勝てば「今年は今までとは違うぞ!」という気分になりました。いいスタートを切りたいのは誰もが考えること。初日に勝てば一瞬でもリーディングジョッキーであり、調教師はリーディングトレーナー、馬主さんはリーディングオーナーです。僕は特にノリやすいタイプだったのか(笑)、初日に勝つと1年通して好調だったような気がします。
1年最初の競馬の日に初めて勝ったのは1992年、ブロードマインドで準オープンの特別競走でした。自厩舎の馬だったし、7番人気だったので、やったぞ!と。その勢いかどうか、2月には初めて重賞を勝ったし、最終的に前年の倍以上、54勝をあげることができました。
1996年は初日の1レースと10レースに勝って早々と2勝。秋には初めてのGIを勝つことができた。初めて年間100勝を突破(136勝)した1998年も初日に2勝しています。100勝以上した年の多くは、初日に勝っているのではないでしょうか。
ところが、メインの重賞、金杯はなかなか勝つことができませんでした。初めて騎乗したのが自厩舎のダイナフランカーでまだ20歳の時、ブービー人気だったけれど8着に頑張ってくれた。ところがその後、ステージチャンプやホッカイルソーなど人気馬に騎乗させてもらいながら2着が3回もあるなど勝ち切れない。京都金杯を含め、ほぼ毎年のように乗せてもらっていたので、もどかしい思いがありました。1年の最初の日のメインレースで「金」がついていてめでたい感じがあるのに、いつも脇役でしかないというのは面白くない(笑)。ずっと勝ちたいと願っていたレースでした。
そもそもつい1週間ほど前は100勝以上していたのに、新年になったらゼロからのスタート。しょうがないこととはいえ、1年間頑張って積み上げてきたのに、年が替わってゼロになると、すごく不安な気持ちになってくる。さらに2週目3週目になっても勝てないと「今年はヤバいんじゃないか」って思ってしまうものです。早く2つ勝って「両目を開きたい」と願っていました。