薬剤師といえば、誰よりも薬のことを熟知する専門家。しかし、直接患者を診察する医師とは違い、彼らが薬について多くを語ることはほとんどない。薬剤師たちは日々、薬局の窓口に立って薬を処方しながら、どんなことを考えているのか。6剤以上の服用で副作用が出る薬ののみすぎが体を蝕むことはもはや常識であり、国を挙げて減薬に取り組む昨今だが、現場では「ねじれ現象」が起きているという。
【座談会に参加した現役薬剤師3人】
A子さん:大手薬局チェーンに勤める30代の薬剤師。
B夫さん:調剤薬局に勤める40代の薬剤師。
C美さん:個人薬局を経営する50代の薬剤師。
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B夫:うちの薬局でも政府による“減薬の推奨”を強く感じています。6種類以上の内用薬が処方された患者がいた場合、薬局が医師に対して薬を減らす提案をすれば点数が加算され、薬局は儲かる仕組みになっています。ただし現行の制度では患者1人に対して1回しか加算されません。定期的に薬局を利用してくれるなら、多剤併用によって生じる有害事象であるポリファーマシーに目をつむってたくさん薬を出した方が最終的に儲かる。
A子:非常によくわかります。薬局は医療機関ではあるけれど、コンビニと変わらない小売業でもあるから、たくさん薬が売れた方がお金になる。10種類の薬を処方されている人がいて、「この薬は危ないかも」「減らせる薬がありそう」と思っても、聞かれない限り何も言いません。明らかに処方が間違っている場合や、使用禁忌の場合は医師に確認しますが、薬剤師は医師が出した処方箋通りに調剤するしかないんです。
B夫:そうそう。悲しいけれど、医療業界では医師が王様で薬局はコバンザメ。医師の処方に対して薬剤師がごちゃごちゃ言ってもメリットはない。
C美:特にうちのような小さい薬局だと、在庫の薬が残ってしまうと大変。基本的に製薬会社から薬を買うときは、100錠や1000錠の箱単位で購入します。開封前なら返品できるけれど、1個でも売れたら返品できなくなるし、使用期限が切れたら捨てるしかありません。だから、いち薬剤師としては疑問を感じる睡眠薬や痛み止め、降圧剤なんかも、処方頻度が多くて在庫を抱えにくいから、薬局としてはありがたい。そんな薬を「やめた方がいいのでは……」なんてわざわざ言わないですね。
A子:使用期限の問題は非常に難しい。薬によって違いますが、ロキソプロフェンなど一般的によく使われるものは、2〜3年で切れるものが多い。薬局では古い在庫を抱えないように、古い薬から出していくのが暗黙のルールです。基本的に処方薬はすぐにのみ切ることを前提としているので、服用期間に使用期限が切れていなければ問題ない。つまり在庫を大量に抱えている薬局は、期限ギリギリのものを出すことだってある。
B夫:使用期限は1か月単位だから、「同じ月ならば期限切れじゃない」という理論でほとんど期限切れの薬を出している薬局もある。たとえば2月までが使用期限の薬を2月末に処方されれば、実際に服用するタイミングは3月にかかってしまう。いくら在庫がだぶついていても、うちでは絶対にやりませんが……。
※女性セブン2023年1月19・26日号