臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、視聴率ワースト2を記録しつつも橋本環奈(23才)の司会ぶりが好評だった「第73回NHK紅白歌合戦」について。
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2022年大晦日に行われた「第73回NHK紅白歌合戦」、新年から話題になっていたのは女優・橋本環奈さんの見事な司会ぶりと、過去ワースト2位という結果に終わった視聴率だ。
この2つの話題を「好奇心のギャップ」という心理用語をキーワードにして振り返ってみると、NHKの思惑の当たりはずれの理由が見えてくる。
橋本さんが司会をつとめたことへの反響は大きく、驚かされた人は多かったのがわかる。個人的にも彼女の起用が発表された時、これまで司会を務めてきた女優たちのイメージが重なった。華やかさはあっても、司会となれば局のアナウンサーには及ばない。曲の紹介が棒読みだったり、言い間違ったり、声が聞き取りにくかったり、重圧という言葉がぴったりするほど緊張感が伝わってくる人もいたからだ。
紅白という大舞台、司会に立った橋本さんはいつもと変わらず、明るく元気で弾けるような笑顔を見せ、緊張感はまるで感じられない。その姿に、これまで知っている橋本環奈ではない、違う橋本環奈が見られるかもしれない。どんな司会をするのか最後まで見てみたいという欲求が生まれ、好奇心が刺激された。「好奇心のギャップ」が生じたのだ。人はすでに知っている情報と、これから知ることができることや知りたい情報との間にギャップがあると、そこに注意を向けるという。向けられた注意により見たい、知りたいという欲求が生まれ、好奇心が働くのだ。
NHKは橋本さんを起用することで、視聴者にこのギャップを生じさせることに成功したと思う。3年連続で司会となった俳優・大泉洋さん(49才)が出場歌手の紹介で笑いを取ろうとして逆に下手を打っても、「ブラボー!」とうるさいぐらいに連呼しても、橋本さんは落ち着いて臨機応変に対応。出しゃばらず、といって下がることもなく、それでいて存在感をアピールしていた。何よりもよかったのは、彼女も言葉がとても聞きやすかったことだ。話し方のスピードが聞き取りやすく、発音は正確、活舌もよく、声のトーンも紅白の司会とぴったり合っていた。大笑いする声もかわいらしく陽気に響き、紅白の楽しさを感じさせるものだった。