突然の廃業を発表した元関脇・豊ノ島、これを受けて角界の関係者、大相撲ファンに衝撃が走った。豊ノ島は引退後に年寄株を取得できず、「井筒」を名乗る権利を借りたが、その借用期限が昨年末だった。まさかの廃業の裏には、「年寄株不足」の問題があるのだ。【全3回の第3回。第1回から読む】
相撲協会は65歳定年だが、2014年から再雇用制度が導入され、70歳まで参与として残れるようになった。それゆえ、“年寄株が足りない”という構造問題が発生している。協会関係者が語る。
「豊ノ島も取得資金がないわけではないようだが、ほとんどの株の行き先が決まっており空きがなかった」
豊ノ島に年寄株取得のチャンスがなかったわけではないが、噛み合わなかった。時津風一門の関係者が続ける。
「所属する時津風部屋で2007年に力士暴行死事件が起きた際に元小結・霜鳥が『錦島』を譲り受けたが、2011年に八百長問題で退職。その際、豊ノ島は空いた『錦島』を手にできたが、億単位の借金をするくらいなら、と手を出さなかったとされる。その判断が尾を引いてか、後々に株を譲るという声が掛からなくなった」
2021年には新型コロナガイドライン違反で「時津風」を襲名していた元前頭・時津海も退職。
「元前頭・土佐豊が『時津風』を襲名し、土佐豊の『間垣』の権利が元・時津海に渡った。本来、その『間垣』は同じ部屋の豊ノ島に譲られそうなところ、引退間近だった伊勢ヶ濱一門の横綱・白鵬に持っていかれた。不祥事で退職する親方は高額で譲ろうと一門外に株を流出させることが多い。不祥事続きの時津風一門は年寄株不足に陥り、豊ノ島に回ってくる株がなくなった構図だ」(同前)
事態は深刻である。昨年は引退した人気力士が親方にならず協会を去る例が相次いだ。元小結・松鳳山、元小結・千代大龍、さらには時津風部屋の由緒ある四股名を継いだ元前頭・豊山も廃業の道を選んだ。
豊ノ島の退職と年寄株問題について協会に見解を問うたが、回答はなかった。慶応大学商学部の中島隆信教授はこう憂う。
「結局、年寄株という既得権を手にした親方衆が自分たちのカネのことばかり考えざるを得なくなっている。本来、協会に残って仕事をすべき能力のある人が年寄株を手に入れられず、能力に欠けていても金銭面やタイミング、人間関係など不透明な理由で協会に残れてしまう。今回の豊ノ島の件は象徴的な出来事だと思いますが、同様のことはこの先も続くでしょう」
このままでは“有望な元力士の相撲協会離れ”は止まらない。
(了。第1回から読む)
※週刊ポスト2023年1月27日号