国内

【人生を沖縄ジャズにのせて】本土復帰50年、87歳の女性シンガーが平和の鐘を背に歌う

バンドマスター(中央のギター)は夫の勝さん(写真は東山さん提供)

バンドマスター(中央のギター)は夫の勝さん(写真は東山盛さん提供)

 アメリカと日本の音楽文化が、独特の風土と歴史のなかで混ざり合って生まれた「沖縄(ウチナー)ジャズ」。今年、米寿を迎える“石垣島のオバー”こと齋藤悌子さんは、87才の現役ジャズシンガーだ。ウチナージャズと人生の苦楽を共にしてきた齋藤さんは、「好きなことを続けることが元気の源」だという。アメリカ統治下の米軍基地で歌い始め、昨年は“デビューアルバム”も制作した彼女だが、過去には辛いこともあった。【全4回の第2回。第1回から読む】

 * * *
 アルバムのタイトル(『A Life with Jazz』)が示すように、齋藤さんは人生の大半をジャズと共に歩んできた。だが、過去にはつらい出来事を機に15年以上歌を封印していた時期もある。齋藤さんにジャズの素晴らしさを教え、10代の頃から行動を共にしてきた夫の勝さんが闘病の末に亡くなったのは1993年。65才の若さだった。

「急に腰が痛いと言うようになって。石垣島の病院で検査したけど異常が見つからなかったんです。一向によくならないので那覇の病院に行ったら、先生に『若い頃に大きな手術をしたことがありますか?』と聞かれました。夫は昔、鼻の手術をしていてそのときの血液製剤が原因でC型肝炎にかかっていたようなんです。それで肝臓がんになって、腰にも転移してしまった」(齋藤さん)

 告知はしなかったが、薬を見た勝さんは自分の病を察していたという。それから約半年後、最愛の夫は静かに息を引き取った。

「病院にみんなで集まっているときに、呼吸器をつけていた夫の意識が一瞬だけ戻ったんです。娘が『お父さん!』と呼びかけると、バイバイって手を振るんですよ。まだ手を振る元気があるんだと思っていると、先生が『ご臨終です』と。あまりのことにそのときは涙も出ませんでしたが、あるとき、レストランで夫が演奏したジャズが流れるのを聴いて一気に感情があふれ出してしまいました」(齋藤さん)

 本格的に音楽に触れることができるようになったのはいまから約5年前のこと。老人クラブの友人に誘われて習いはじめたフラダンスがきっかけだった。

「ジャズとはまったく違うジャンルだし、踊りからはじめたので抵抗はなかったんです。そのうちウクレレに合わせてハワイアンを歌うようになり、徐々に慣れていったのがよかったんでしょうね。

 そうこうしているうちに、たまたま喫茶店で流れていたジャズを耳にして『もう一度、歌いたい』という気持ちがむくむくと頭をもたげてきました。やっぱり、青春時代に出会いましたから、いまでもジャズが好きなんですね。でも、いざ歌おうとすると、なかなか声が出ない。それで真剣に練習するようになったんです」(齋藤さん)

関連記事

トピックス

懸命のリハビリを続けていた長嶋茂雄さん(撮影/太田真三)
長嶋茂雄さんが病に倒れるたびに関係が変わった「長嶋家」の長き闘い 喪主を務めた次女・三奈さんは献身的な看護を続けてきた
週刊ポスト
6月9日、ご成婚記念日を迎えた天皇陛下と雅子さま(JMPA)
【6月9日はご成婚記念日】天皇陛下と雅子さま「32年の変わらぬ愛」公務でもプライベートでも“隣同士”、おふたりの軌跡を振り返る
女性セブン
(インスタグラムより)
「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画…直後に入院した海外の20代女性インフルエンサー、莫大な収入と引き換えに不調を抱えながらも新たなチャレンジに意欲
NEWSポストセブン
中国・エリート医師の乱倫行為は世界中のメディアが驚愕した(HPより、右の写真は現在削除済み)
《“度を超えた不倫”で中国共産党除名》同棲、妊娠、中絶…超エリート医師の妻が暴露した乱倫行為「感情がコントロールできず、麻酔をかけた患者を40分放置」
NEWSポストセブン
第75代横綱・大の里(写真/共同通信社)
大の里の強さをレジェンド名横綱たちと比較 恵まれた体格に加えて「北の湖の前進力+貴乃花の下半身」…前例にない“最強横綱”への道
週刊ポスト
地上波ドラマに本格復帰する女優・のん(時事通信フォト)
《『あまちゃん』から12年》TBS、NHK連続出演で“女優・のん”がついに地上波ドラマ本格復帰へ さらに高まる待望論と唯一の懸念 
NEWSポストセブン
『マモ』の愛称で知られる声優・宮野真守。「劇団ひまわり」が6月8日、退団を伝えた(本人SNSより)
《誕生日に発表》俳優・宮野真守が30年以上在籍の「劇団ひまわり」を退団、運営が契約満了伝える
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン