ヘッドホン難聴以外にも、とくにコロナ感染拡大以降に増加中なのが働き盛り世代の耳鳴り。この耳鳴りの主な原因は難聴だが、最近は発症していないのに耳鳴りだけがある無難聴性耳鳴も多い。原因は睡眠不足、過労、ストレスによる脳の疲労だ。治療は薬の服用が中心だったが、依存性も高いため、長期的な生活指導にシフトすることで成果を上げている。
耳鳴りは実際に音が鳴っていないのに「キーン」といった高音と「ジージー」などの低音が断続的に複数音で聞こえる。数十秒から数分聞こえるのは生理的耳鳴りといい、誰にでも起こる正常な耳鳴りだ。それが常に特定の周波数の音が鳴る場合、純音性耳鳴りという症状になる。
中には複数の耳鳴りが継続するために眠ることすらできず、日常生活に支障をきたす人もいる。耳鳴りの原因の9割は突発性難聴や加齢性難聴で、メニエール病や中耳炎などによる難聴もある。
今回もJCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科の石井正則診療部長に聞く。
「受診ではまず、標準純音聴力検査で音の聞こえ方を調べます。次に鼓膜の動きを調べるティンパノメトリー検査や必要に応じて、めまい検査なども行ないます。これで耳の病気や難聴が判明しなければ、体調を推し量るため、心身の疲れの症状、不安やストレスに関するアンケート検査を実施します。これにより自律神経の疲れ、過労、ストレスが確認された場合は無難聴性耳鳴と診断されます」
石井診療部長は無難聴性耳鳴の研究に取り組んだことがある。30代の耳鳴りがない人たちを万全の配慮を整えた上で無響室(音が吸収される部屋)に入れ、わずかでも耳鳴りを感じるかを確認(参加者は感じず)。その後、別室で大量の文字をキーボードで入力する作業を徹夜で実施、早朝に再び無響室へ。すると全員に強烈な耳鳴りが生じ、無響室を出ると、さらに耳鳴りが強くなった。また耳鳴りを持つ人たちにも同様の実験を実施したところ、普段よりもひどい耳鳴りが起こった。
「この研究で無難聴性耳鳴の原因は脳の疲労であると実証されました。睡眠不足、過労、ストレスで脳に疲労が溜まると脳の感覚が鋭敏になり、耳鳴りが通常の10倍、100倍にも増幅されるのです。コロナ感染拡大以降は将来への不安、勤務形態の変化によるストレスに過労や睡眠不足が重なり、すでに若い方を中心に500人以上の患者さんを治療しています」(石井診療部長)