年が明けて寒中らしい厳しい寒さが続いている。暖かい部屋でじっくりと読書を楽しめるおすすめの新刊4冊を紹介する。
『成熟スイッチ』/林真理子/講談社現代新書/924円
2022年夏、母校の日本大学理事長に就任、領域を拡大し続けている著者が、これまで積み上げてきた人生について縦横無尽に語る。生意気盛りに可愛がってくれた先輩作家達との交流や歴史小説に挑んだ作家としての転機。お金の遣い所や人間関係の機微。「有名になりたい一心で世に出た」一人の女性がいかにして成熟の刻を迎えたか。こざっぱりした半自伝から受け取る助言は多い。
『香港少年燃ゆ』/西谷格/小学館/1980円
読み始めて“あ、この著者って『ルポ 中国「潜入バイト」日記』を書いた方だ”と気づく。中国語に堪能なのが著者の武器だ。2019年香港で自由と人権が侵されると若者達が大規模な抗議デモを起こす。著者はいても立ってもいられず香港へ。現場で出会った15才の少年ハオロンを通し、香港の今を記録する。若者の反骨心は世界共通。ハオロンという窓から、生きた世界史を垣間見る。
『秋雨物語』/貴志祐介/KADOKAWA/1870円
恋愛できない男が前世を告白する冒頭作を前菜に、中編が3編。失踪した作家の原稿から、編集者と女性秘書が辿る「解離性遁走」という奇っ怪な物理現象、古いレコード盤に秘められたミツコ・ジョーンズという日系天才声楽家の生涯、こっくりさんのロシアン・ルーレット版で人生を変えた小学生達が大人になって直面する罪と罰。業火に焼かれる人生をホラー仕立てで描く。
『破局』/遠野遥/河出文庫/693円
この芥川賞作を読んだとき、自分は旧人類だと衝撃を受けた。一流私大の4年生である陽介を異星人だと思うと同時に、世界はこのような者達の群れになっているのではないか、と。合理的な最適解で生きるスマートな“知性”。蛇足ながら襲撃された宮台真司氏はこのような者達を「法の奴隷」「言葉の自動機械」「損得マシン」=人間のクズ化と呼んでいる。薄気味悪い傑作だ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年2月2日号