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映画『おくりびと』の特殊メイク 肌の奥の血管まで表現されたダミー人形

「ご遺体役」の肌は近くで見てもシミなどが緻密だ

「ご遺体役」の肌は近くで見てもシミなどが緻密だ

 映画『おくりびと』(滝田洋二郎監督)に出てくる遺体には、実際の俳優と錯覚するほどのリアルなダミー人形が用いられている。いかにしてそのリアルさを表現したのか、日本の特殊メイクの第一人者・江川悦子氏に、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が創作の裏側を聞いた。

 * * *
――リアルな肌の質感を出す際には、どのような工夫をしていますか?

江川:生きた状態の人間でしたら、肌の奥に細かい血管があるんですよ。肌色の中にも静脈の色だったり、血管の色が細かくチラチラと透けていたり。ですのでそういう色のペイントを加えたりします。どんなに「きれいな肌」といっても、一色ということはまずないので、ペイントを重ねることでリアリティを作ります。

 素材は限られているので、作る時の色の調合で工夫します。内部着色もできるので、色白の人だったり、ちょっと色が褐色だったりと、微妙な色を作ります。色黒の男性なら、土台に黒っぽい色をつくって流して、それの上にペイントします。色白の女性なら、そういう色に調合して流して作ったものにさらにペイントする……みたいな。

――カメラであったり照明によって見え方は変わってくると思いますが、そこはどう計算に入れていますか?

江川:それはなかなか難しいんです。計算していたつもりでも、現場に入ったら想定外のライティングだったりすることが往々にしてあるんです。そこは照明さんにご相談することがありますし、カメラアングルによってもだいぶ違って撮れるので、そこは皆さんの協力を得ています。所詮は作りものだけれども、どうやったらリアルに見せられるかを追求するために皆さんを巻き込みながら進めています。

――昔の日本映画やドラマのダミー人形って、見るからに「嘘」だなというのが多かった気がします。そうしたダミーと江川さんが作っているリアルなダミーの大きな違いはどこにあるのでしょうか。

江川:おそらく素材だと思います。リアルを追求すると、まつ毛も一本ずつちゃんと植毛しますが、それだけでなく、そのカールの仕方も近いものを探しますし、細かいことに気を遣わないとなかなかリアリティって出ないんです。そこは極力頑張っています。

――ご自身で完成映像を御覧になるとどう感じられますか?

江川:もうちょっとリアルに作れたらよかったなっていうときもあれば、すごくよく撮れていて、こちらの作った実物以上によく映ってることもあるんです。

【プロフィール】
江川悦子(えがわ・えつこ)/1954年生まれ、徳島県出身。出版社でファッション誌の編集をした後、夫の海外赴任に伴い退社。1980年、特殊メイクの学校Joe Blasco make-up Centerへ入学。『メタルストーム』『砂の惑星・デューン』『ゴーストバスターズ』などの映画にスタッフとして参加。帰国後、特殊メイク制作会社メイクアップディメンションズ設立。映画、ドラマ、CMの特殊メイクを多数担当。

【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。

※週刊ポスト2023年1月27日号

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