菅義偉・前首相による「岸田批判」が大きな波紋を広げている。その発言に次々と同調する議員が出てきたことによって、「菅氏が復権に向けてついに動き出した」と見られている。菅氏の動きは以前から水面下で進められていた。彼の真の目的とは──。【前後編の前編】
「これは総理の外遊中を狙った同時多発テロみたいなものだ」(岸田側近)
首相官邸に衝撃が走った。菅氏が火をつけた「派閥政治批判」があっという間に自民党内に広がったからだ。
支持率低下に苦しむ岸田文雄・首相が挽回を賭けた欧米歴訪に出発したのは1月9日未明、そのタイミングを見計らったように翌10日発売の月刊誌『文藝春秋』2月号に菅氏が首相を名指しで批判する〈派閥政治と決別せよ〉というインタビューが掲載された。
自民党には総理・総裁になれば「公平な政権運営」のために派閥を離脱するという不文律があるが、岸田首相は就任後も派閥会長に居座り、岸田派の例会にも頻繁に出席している。菅氏はそこを突いた。
〈岸田総理は未だに派閥の会長を続けていますが、(中略)派閥政治を引きずっているというメッセージになって、国民の見る目は厳しくなる〉
さらに菅氏はその日、訪問先のベトナムから二の矢を放った。「首相は国民全体の先頭に立って汗を流す立場にある。歴代(首相)の多くは所属派閥を出て務めていた」と批判を繰り出し、返す刀で岸田首相が掲げた「異次元の少子化対策」で浮上している消費税増税についても「国民から理解されない」と正面からパンチを浴びせた。
以心伝心の3人
ここからが“同時多発批判”の本番だった。閣内からは麻生派の河野太郎・消費者担当相が11日の会見で、こう声を上げた。
「派閥というものは国民から見れば、政党とも会派とも違うものですから、菅さんのおっしゃることもわからないではありません。やっぱり国民と向き合う時には(派閥ではなく)自由民主党としてしっかり向き合っていくことが大事」
自民党執行部からは安倍派の世耕弘成・参院幹事長が、「岸田総理が派閥色を露骨に出して仕事をしたことは全くなかった」と前置きしてこう発言した。
「派閥を離脱して首相や総裁を務めるというのが、安倍首相までの慣例だったので、岸田首相自身がよく判断すればよい」(11日の会見)