昨年12月21日に韓国で公開された『英雄』なる映画が、260万人超の観客動員を記録する大ヒットとなっている。題材は伊藤博文を暗殺した「反日英雄」安重根(1879~1910年)で、安重根義挙100周年の2009年に初演されたミュージカル『英雄』が原作となっている。メガホンをとったのは韓国で名匠として知られるユン・ジェギュン監督で、演技派で知られる豪華キャストが揃う。
昨年から韓国では「安重根ブーム」が起きており、金薫著の小説『ハルビン』がベストセラーとなり、日本でも大ブームとなった『愛の不時着』のヒョンビンが安重根を演じる映画『ハルビン』も今年中に公開される予定だ。
韓国メディアでは〈梨泰院の雑踏事故を経験して英雄が恋しい時期という点はヒットの後押しになる〉〈韓国社会は経済的不況と社会的危機に見舞われており、大衆は安重根に共感と慰めを得ている〉といった分析をしているが、同時に反日機運が高まっているとみる向きもある。
いわゆる徴用工訴訟問題を巡っては、韓国政府の「韓国の財団が日本企業の賠償支払いを肩代わりする」とした解決案について、原告の支援団体が韓国政府に抗議する集会を開き、野党議員からも「自害的外交」と反発の声があがっている。『英雄』を観た漢陽女子大学助教授の平井敏晴氏はこう語る。
「そうした状況下で、映画の影響力を考えると、伊藤を悪の権化にした映画のイメージは韓国人に広がりやすい。『英雄』の最後には暗転した中で、安重根の遺体は韓国には戻ってきていない、といった一文が表示されます。
日本支配の歴史を忘れないようにしようというメッセージが込められているように思えます。韓国社会の根底にある反日感情を刺激するような映画がヒットしていることは、日本だけでなく対日関係の回復を急ぐ尹錫悦政権にとっても新たな障壁でしょう」
※週刊ポスト2023年2月3日号