懸命に努力して突破した狭き門の先には、さらに激しい競争が待ち構えていた。荒波に揉まれる愛娘の姿は、夢を託した君島十和子(56才)の目にどう映っていたのだろうか。母娘で描いた物語が、間もなく終わりを迎えようとしている──。
煌びやかな衣装に身を包み、大階段を下りながら、優雅に歌い踊る。
「あの舞台に立ってみたい」
かつて母が抱いていたその願いはいつしか娘に受け継がれ、26.6倍という宝塚音楽学校の超難関入学試験を母娘一体となって乗り越え、卒業後にタカラジェンヌとしての初舞台を踏んだ。以来7年間、母娘の次なる目標は「トップスター」のはずだった。
美のカリスマとして多くの女性から支持される君島十和子は、最近、間もなく転機を迎える長女について友人にこう打ち明けた。
「これからのことは、彼女が決めることだから……」
昨年12月17日、宝塚歌劇団月組が8名の退団を発表した。一度にこれほど多くのメンバーが退団するのは異例で、多くのファンが動揺した。その中には、君島の長女である蘭世惠翔も含まれていた。蘭世は2014年に2度目の挑戦で宝塚音楽学校に合格した。
「顔立ちがかわいらしく、気品があって、スターとしての華があると入学当初から評判だった。未来のトップスター候補として期待されていました」(宝塚関係者)
有名人の娘として周囲の期待は大きかった。彼女は人一倍練習に打ち込み、音楽学校卒業時には、演劇部門で優秀賞を受賞した。月組に配属されると男役の主要キャストとして出演を重ねた。
「新人公演で彼女が抜擢された役は、『路線』といって、未来のスター候補のポジションでした。そのまま男役として、トップまで駆け上がるだろうとファンは期待していたんです」(ファンのひとり)
プラチナブロンドに染めたショートヘアスタイルが「カッコかわいい」と評判で、ファンへのサービスも欠かさない。男役として着実にステップアップしているように見えたが、2019年に突然、娘役への転向を発表した。
「転向にショックを受けたファンが多くいました。ただ、男役としては頭打ちになってきていたんです。彼女の身長は公称167.5cmで、たしかにやや身長が足りなかった。これまでに男役としてトップに立った人たちの中には、170cmを超える長身が多くいましたからね。さらに上を目指すための決断でした」(前出・宝塚関係者)