スマートフォンによって、いつでも撮影することが当たり前となり、SNSの普及によって、誰でも発信することに抵抗がなくなった。一方で、写り込んだ見知らぬ人にはモザイクをかけることがマナーとして共有されるなど、「知られない権利」「拡散されない権利」も広まっているはずだ。ところが、PVが稼げるとなると、SNS利用によって育成されたはずの”良識”はどこかへ吹き飛ぶらしい。ライターの森鷹久氏が、SNSで街の様子を撮影した「街歩き映像」が人気を集める一方で、新宿区立大久保公園をめぐる、バズりたい人たちによって起こされた波紋についてレポートする。
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日本一の大繁華街、東京・新宿歌舞伎町にある公園が今、SNS上で話題になっている。
「歌舞伎町の奥に大久保公園というところがあって、その周りにいわゆる”立ちんぼ”といわれる若い女性の私娼がいると評判になっています。立ちんぼ女性にインタビューしたり、立ちんぼ女性と男性がホテルに入ってゆくところを撮影した映像がアップされていて、日本にもこんなところがあったのかと、ネットユーザーはとても驚いているようです」
こう話すのは、自身で撮影した「街歩き映像」をSNSや動画サイトにアップし続けている遠藤寛太さん(仮名・20代)。新宿や渋谷の街歩き映像はYouTubeでも何十万回と再生される人気コンテンツで、遠藤さんも実は話題の公園にも撮影に行ったこともあった。だが、すでに買春目的の男がウロウロしていて、さらに過激系ユーチューバーらしき人までやってきていたことから、トラブルを防ぐために撮影は断念したという。
「行ってみてわかりましたが、そこにいた女性たちはみな、当然カメラを嫌がっています。それをユーチューバーや興味本位で訪れた一般人たちが構わず撮影する。中には、交渉が成立した男女を追い回したり、無断で女の子に声をかけカメラを向けたりする人たちもいます。さすがに気の毒に思い、撮影はできませんでした」(遠藤さん)
無許可での撮影はトラブルのもとだし、何より被写体が嫌がるものは撮影が成立しないと考えるのが、当たり前の感覚だ。公共の利益にかなうような撮影であれば、カメラを向ける理由が理解できなくもないが、相手は単なる一般人であり、法を犯したとはっきりしているわけでもない。確かに、世間から褒められないようなことをしているかもしれないが、それを一方的に断罪するかの如く、不特定多数に向けて拡散する理由にはならないだろう。
ネットのほうが怖い。路上なら、いきなり殴られる心配がない
1950年6月に公園として整備され、1951年に新宿区立となった大久保公園は、1990年頃から住みついた路上生活者や、深夜から早朝にかけて騒ぐ若者や外国人による不適切な使用が地域住民から問題視されていた。災害時の緊急避難を考えると区立公園は24時間開放が原則だが、トラブルが頻発するため2005年にはいったん全面閉鎖された。2007年からは夜間閉鎖となり、それは現在も続いている。閉鎖や夜間閉鎖の間も消えなかった、夜になるとフェンスで囲まれた大久保公園をぐるりと囲むように一定間隔をあけて立つ人たちは、そのときどきによって様々な背景を持っていた。