「ひどい胸痛と高血圧が続いて耐えられずに救急車を呼んだこともありました。重度の倦怠感で起き上がれないことも。接種から1か月後に首のリンパが腫れて40℃前後の高熱が9日間続いたときは、命の危険すら感じました」
そう話す40代のA子さんは、椅子に座る姿勢を保つのもつらそうだ。A子さんが1回目のワクチンを打ったのは、新型コロナの第5波が収束した2021年10月。集団接種会場でのことだった。感染が落ち着いているうちにワクチンを打ち、次の波に備えようと思ったのだ。しかし接種から1分後、体に異変が起きる。
「急に手がしびれて、しばらくするとゴホゴホと咳が出始めました。おかしいな、とは思ったものの、その場ではそれ以上の症状が出ることはなく、家に帰りました。しかし、しばらくすると徐々に体の痛みやしびれが全身に広がり、喉がふさがっていくのを感じました」(A子さん)
あの日から1年半近くたった現在も、A子さんはいまだに原因のわからない症状に苦しめられている。
「“令和の運び屋”と言われるよう頑張りたい」──。
当時ワクチン担当大臣だった河野太郎氏はそう宣言し、国を挙げて新型コロナワクチンの大規模接種を実施した。しかしその陰で、A子さんのように人知れず苦しみ続けてきた人がいる。
現在、新型コロナワクチンによる健康被害が出た人を救済する「予防接種健康被害救済制度」で認定が下り、補償を受けたのは5941件の申請のうち、1459件。そのうち20件が死亡事例だった(2023年1月23日時点)。
約8割近くがいまだ救済されないままであるうえ、さまざまな事情から申請ができない後遺症患者もいる。今春、新型コロナを季節性インフルエンザと同等の「5類」に引き下げられることが検討され、コロナ禍から脱しつつある世の中をよそに、彼らをとりまく状況は依然として厳しい。
洗濯物を干すだけ、ドライヤーを使うだけで息切れする
死すら頭をよぎるほどの急激な体調の悪化はワクチン接種が関係するのではないか。そう疑ったA子さんは県立病院を受診したが、医師の反応は冷たかった。
「接種直後の異変は接種によるアナフィラキシー(急激なアレルギー反応)とされたものの、翌日から出た症状はすべてワクチンとは無関係だと否定されました。血液、レントゲン、心電図、CTといろいろ検査しても異常が見つからない。心因性と診断されて精神科をすすめられたのです。接種5か月後からは膠原病科に通院しています」(A子さん)
その後も体調は完全には回復しなかった。現在、A子さんの症状はやや落ち着いたものの微熱や疲労感が毎日続き、関節の痛みや目と耳の不調に悩まされている。そのうえ、時々地震のような揺れや真下に引っ張られるようなふらつきに襲われると明かす。