まだまだ寒い日が続くこの季節。暖かい部屋の中で、読書を楽しむのもいいだろう。そこで、今読みたい新刊4冊を紹介する。
『三谷幸喜のありふれた生活(17) 未曾有の出来事』
三谷幸喜/朝日新聞出版/1540円
新聞夕刊連載のシリーズももう17作目(2019~2020年を収録)。新作歌舞伎、映画『記憶にございません!』、パルコの舞台『大地』や香取慎吾のシットコム(観客の笑い声も入れて収録するコメディドラマ)、大河ドラマ3本目になる『鎌倉殿の13人』の発表などに加え、コロナ禍の演劇人の苦境も伝える。活字(短編小説)にスピンオフした古畑任三郎シリーズも、予期せぬ贈り物。
『罪の境界』
薬丸岳/幻冬舎/1870円
渋谷のスクランブル交差点で通り魔に襲われ九死に一生を得た明香里。物語は2本のレールで進む。明香里が自分をかばって落命した男性の最期の言葉を、誰に伝えたらいいのか恋人と探す旅。もう1本は通り魔男に自分と同じニオイを感じたライターが、通り魔男と実母の軌跡を追って各地を歩く旅。親ガチャ、貧困、育児放棄などテーマは重苦しいが、ラストには救いがある。
『ゼロからの「資本論」』
斎藤幸平/NHK出版新書/1023円
例えばマルクスが書いたこんな文章。「労働者は労働力に対する処分権はもつが、労働に対する処分権など全然もっていない」。は? 解説はこう。“労働者は労働力を誰に売るかの選択権は持っているが、売れば働き方の自由を100%失う”。あ、分かる! 難解なマルクス用語をもみほぐすだけでなく、格差と分断からの脱出法や希望の処方箋も説く。さらば新自由主義と叫ぼう!
『姉川忠義 北近江合戦心得〈一〉』
井原忠政/小学館時代小説文庫/748円
浅井長政に仕える若き弓の名人遠藤与一郎。小谷城が織田勢の手に落ちれば、信長は必ず男系の血を絶つ。与一郎は元山賊の巨漢弁造を供に、主君の嫡男万福丸を連れて秘かに城を脱出する。義母とはいえ於市(信長の妹)を慕う万福丸にホロッ。昼下がりの蕎麦屋に入り、ヌル燗一本で文庫の時代小説を読み切るのが趣味と言っていた女優さんがいたけど、あの人にお薦めしたい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年2月16日号