テレビ東京の人気番組『Youは何しに日本へ?』に「裏社会の研究をしにきた」と語り、司会のバナナマンや視聴者を驚愕させたイタリア人のマルティーナ・バラデル氏。ホーム・ステイ中、ビーチでヤクザの集団と会う一夏の経験から日本の裏社会に関心を持ったという彼女に、フリーライターの鈴木智彦氏が話を聞いた。【全3回の第2回。第1回から読む】
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イタリアに帰国してヴェネツィア大学を卒業すると、イギリスにあるリーズ大学の大学院に進み、日本の政治を専攻した。同時に一夏の経験で興味を持ったヤクザの研究を開始した。日本の組織犯罪の現状をヨーロッパの犯罪学者たちにも知らせるため、その後はマンチェスター大学院に進学して犯罪学を専攻したという。卒業後は組織犯罪の研究で有名な先生を追いかけ、ロンドン大学院に再度入学し、さらに日本の犯罪について研究した。
その後、英国のJapan Foundation Endowment Committeeから支援を受け、暴力団の現状を取材するため、立正大学の法学部に半年留学した。彼女が私にメールをくれたのはこの頃だ(2018年)。
彼女の経歴を見ると、海外ではヤクザの研究が進んでいるようにも思える。そう訊くと、彼女は即座に「いえ、ほとんど無視されています」と否定した。
「日本の組織犯罪について、イタリア語や英語で書かれた書籍は『Yakuza: The Explosive Account of Japan’s Criminal Underworld』(Kaplan, David E./ Dubro, Alec,1986)や『Japanese Mafia- Yakuza, and the State 』(Peter Hill. Oxford University Press, 2003)の他に数冊でほとんどありません。犯罪学の中で、私の母国であるイタリアのマフィアなど他国の組織犯罪の研究は多くされているのに、日本の組織犯罪は世界でもほとんど無視されていると実感しました」
『Yakuza』は力作で真面目なヤクザレポートではあるが、やはり多少問題がある。1991年、ようやく日本でも『ヤクザ ニッポン的犯罪地下帝国と右翼』(第三書館)として翻訳されたのだが、ディビット・E・カプランは、18社が翻訳権の獲得に名乗りを上げたのに話がまとまらず、出版に時間がかかった経緯を、日本版の序文にこう記している。
「本書は日本の出版業界が非公式に選定したブラックリストの1冊であると、我々は結論づけざるを得なかった。(中略)日本の取り扱いに注意を要する問題や重要人物にはタブーが存在するものだが、そのタブーをあまりにもたくさんしかも奥深くまで破ってしまったのだから、本書の出版は絶対にありえない、と暗黙のうちに我々筆者は宣言されたも同然であった」
外国人は自分の研究成果の価値を疑わず、出版が決まらないとまるで陰謀論のような思考をする。が、版元が決まらなかったのは「面白くない」からとしか思えない。もっといえば前提がズレているので結論がさらにズレてしまい、一種のとんでも本的要素があるからだろう。
こんな資料しかないのだから、マルティーナ氏が自身でヤクザを調査したいと熱望したのはよくわかる。彼女は博士号を獲得し、現在はオックスフォード大学で博士研究員となったが、同時に日本の大学に研究員として在籍し、ヤクザ研究に没頭している。