松本潤主演で話題を呼んでいるNHK大河ドラマ『どうする家康』。この中で頻出となっているセリフがある。「あほたあけ」だ。ツイッターでも話題になっているこの言葉は流行語になるのか? 「三河生まれで尾張育ち」でもある時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが綴る。
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服部半蔵(山田孝之)が嫌々(?)率いる忍び集団、服部党が出て、いよいよ怪しさが増してきた大河ドラマ「どうする家康」。80年代大人気だった千葉真一の「影の軍団」ファンの私としてはうれしい限りだが、その前に気になってきたことがある。
そこここで聞こえる言葉「あほたあけ」である。ひょっとしてこれは流行語になるのか? 先日放送された第6話「続・瀬名奪還作戦」。
第5話では、今川方に人質同様になっている愛妻・瀬名(有村架純)と子どもたちを奪い返すため、本多正信(松山ケンイチ)の提案によって服部党の忍びたちに潜入作戦を実行させた家康だったが、あと一歩のところで失敗。正信は次の策として、生き残りの服部党を上ノ郷城に忍び込みこませ、今川の重臣・鵜殿長輝(野間口徹)と息子たちを生け捕りにする作戦を考える。
しかし、生き残った服部党の顔ぶれが子どもや女(松本まりか)までいると知った正信は、「あほたあけ」とまず一発。その後も「あほたあけ」はこの回だけで計5回、予告編にも1回出てきて、すっかりおなじみの言葉になってきている。
三河生まれで尾張育ちの筆者からすると、「おバカ」といった意味の「たあけ」はとても耳なじみのある言葉だ。私の周囲にも「たあけたことを言やあすな(バカげたことを言うな)」などと言う目上の人がたくさんいた。「たあけ」は、もともとは「たわけ」で、高校時代は、友人同士、ふざけて「たわし!!」と言い合ったものだ。当時、聞かされていた「たわけ」の語源は、「田分け」で、先祖伝来の田をうまく分けないのは愚か者がすることだといった意味だったと思う。昔の感覚でいえば、田は長男に全部継がせるもので、やたら田を分けるのは愚かだという意味だったのかもしれないが、のんきに「たわし」と言っていた高校生は当然、深く考えたこともなかった。
ただ、「田分け」は俗説だったらしく、「たわけ」には、「戯け」という漢字があり、「おどける」「ふざける」「愚か者」「バカ者」という意味があると知ったのは、後年のことだ。そして、今回このコラムを書くにあたって、「広辞苑」にて「たわけ」に「みだらな通婚」という意味があり、それが古事記にも記載されているとわかり、驚いてしまった。言葉は深い。