ドラマや映画、CMへの出演だけでなく、NHK紅白歌合戦や『日本レコード大賞』の司会を務めるなど、縦横無尽の活躍を見せる有村架純。放送中の『どうする家康』では家康(松本潤)の正室・築山殿(瀬名)役でNHK大河初出演を果たした。そんな有村が主演の新作映画『ちひろさん』が、2月23日、Netflixにて全世界配信スタートとなる。本作で有村はどんな演技を見せているのか。ライターの小林久乃氏が紹介する(注/作品の内容に触れる箇所があります)。
* * *
2023年はまだ序盤ながら、早くも胸打つ映画に出会ってしまった。有村架純さん主演の『ちひろさん』(Netflix/アスミック・エース)である。人気漫画の待望の実写化ということで、2月23日の配信スタート前から話題を呼んでいる。原作、映画ともにチェックした私の意見としては「再現性、完遂」である。
ゆったりとした時間が流れる海辺の田舎町の弁当屋で働くちひろさん(有村)は会社員と風俗嬢、ふたつの職歴を持つ女性。ちょっと口は悪いけれど、彼女の元にはホームレス、女子高校生、小学生、力仕事で働くお兄さん……と街のさまざまな人が訪れてくる。皆、ちひろさんに会いたくなるのだ。誰に対しても分け隔てなく接して、それぞれの思いや悩みを受け止めていく、ちひろさん。そして彼女もまた自身の中に消化しきれない何かを抱えているのだった──これが作品のあらすじである。
潔いほど“分け隔てのない”ちひろさん
どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出しながら日常の風景が流れていく『ちひろさん』。見終えたときに「ああ……」と脳裏に残ったのは、彼女が誰に対しても“分け隔てなく”接する姿だった。公園で見かけた猫と戯れ合う。ふとしたきっかけで出会ったホームレスのおじさんを自宅に招き入れて体を洗い、一緒に弁当を頬張る。猫にも、男にも。悩む10代たちに接する際も決して大人ぶらず、同じ目線で話をする。
水商売で働く母親に世話をしてもらえない小学生のマコト(嶋田鉄太)とも対等に揉めて、挙句怪我をさせられる一幕があった。やがてマコトが謝罪すると「……それじゃあダメだな。謝る時はちゃんと相手の目を見て言わなくちゃ」とちひろさん。そう言って笑う。つられてマコトも笑う。
マコトとは真逆で、恵まれた家庭に窮屈さを感じるオカジ(豊嶋花)も、吸い寄せられるようにちひろさんの側へ歩み寄る。こんなやりとりが印象的だった。
オカジ「あの……何も聞かないんですか」
ちひろさん「何を聞くの? 何か聞いて欲しかった?」
オカジ「気になりませんか。ふつう、名前とか、年齢とか、目的とか。どんな人かわかんないって不安じゃないですか?」
ちひろさん「そんなの当てにしたことないもん。第一、それが本当のことかどうかわかんないし。(中略)その人がどういう人か目を見ればわかるよ」
忖度なしにコミュニケーションを取るほうがいいのか、悪いのか。意見は十人十色である。時と場合によることは間違いない。でも、人によって態度を変える自分には疲れるときがある。そんなとき、ちひろさんの潔いほどの“分け隔てのなさ”が愛おしくなる。作品にはそんな人物が描かれている。