私もその手を掴んだことがある。
大学の入学金と授業料を貯めるため、私は高校3年間、新聞配達などのアルバイトをしていた。しかし、どうしても20万円弱足りない。求人雑誌を買うと巻末にススキノの求人が特集されており、南米を想起させる店名のキャバレーを見つけた。すべてをあけすけに話すと即日採用された。
手渡された分厚いドカジャンを着て、その夜からススキノの路上で客引きをした。酔っ払いが暴れると、ヤクザっぽい男たちがなだれ込んできて、トラブルは一瞬で片付けられた。一度、ヤクザたちのあとに続いて、キャバレーに飛び込んだことがあった。真っ赤なドレスを着たホステスの二の腕が、返り血で真っ赤に染まっていた。
私は無事20万円を稼ぎ、最後の夜、兄貴分らしいヤクザに挨拶をした。
「東京でそのジャンパーじゃ暑いだろ」
兄貴分は私に3万円をくれた。私はカタギの一線を越境していた。幸いセピア色のほろ苦い思い出となったが、ひょんな拍子に犯罪者の一味となっていた可能性はある。