連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK)、アニメ『SPY×FAMILY』(ヘンリー・ヘンダーソン)など、舞台や映画、ドラマ、吹き替え、アニメと幅広く活躍している山路和弘(68才)は、魅力的すぎるヒール役に定評がある。
「『ちむどんどん』では面倒見のいい店主役だったのですが、プロデューサーには“大丈夫です、悪い人には見えません”って言われました(笑い)。それくらい、悪役の方がなじむんですよ。だって“いい人”でい続けるのは大変ですよ。いつも空気を読んで、いろんな人にリアクションをするでしょ。でも悪党はそんなの無視。わが道を行くことができて、自分の言動で相手が脅えたりするんだから、こんな楽しいことないじゃないですか。私自身がいい人だから、悪役に惹かれるのかな(笑い)」
1977年に青年座研究所の一期生となり、役者人生が始まった。
「当時の青年座には西田敏行さんがいました。絶妙かつ軽妙な芝居に憧れて、語り口や所作なんかを一生懸命まねしている時期がありました。三國連太郎さんにも影響を受けました。目の下のクマがカッコよくてね……若い頃は“おれもあんなクマが欲しい”と思っていました。いまは充分濃いクマができてしまいましたが(笑い)、三國さんのようなギラギラとした魅力は、いまも手に入れられていないと思っています」
山路にしかない唯一無二の魅力は、これからも深まっていく。
──休日は何をして過ごしていますか?
「猫と戯れるか、料理をしています。在宅時間が増えたからか、妻に毎日『今日のごはんなーに?』と聞かれるんです。昨日は麻婆豆腐を用意していたんですが、妻が『カレーの気分』って言うから、急遽カレーに変更しましたよ(笑い)」
──思い出深い役は?
「40年ほど前の映画『スカーフェイス』のアル・パチーノ。麻薬王として君臨するものの、自身もコカインで崩壊し、最期は射殺される役柄です。どこまでも崩れていく姿は、演じていて無性に楽しかった。“悪役はおもしろい”と感じた初期の作品です」
──「声の仕事」ならではの 楽しさを教えてください。
「吹き替えで言うなら“錯覚“です。画面内の役者の口の開閉や呼吸を合わせる吹き替えの仕事は、いわば“技術職”なんですよ。『あの外国人さん、日本語が上手ねえ』と錯覚してもらえたら大成功です」
【プロフィール】
山路和弘/1954年6月4日生まれ。三重県出身。1979年に劇団青年座に入団。2018年に「江戸怪奇譚〜ムカサリ〜」(一人芝居)、「喝采」の演技に対して第59回毎日芸術賞を受賞。また、ジェイソン・ステイサムをはじめ多くの洋画で吹き替えを担当し、2021年に第15回声優アワードにて外国映画・ドラマ賞を受賞。近年では人気アニメやドラマ、映画にも多数出演。
撮影/岡本俊 取材・文/小山内麗香
※女性セブン2023年3月2・9日号