JR新大阪駅から徒歩3分。“酒”と書かれた大きな看板が目を惹く『橋本酒店』。長年通う地元客をはじめ、新大阪駅を利用するビジネスマンや鉄道会社に勤める常連客にも愛されてきた老舗だ。
店主は3代目の足立尚弘さん(61歳)。妻で先代の娘の真紀さん(59歳)と母の橋本和子さん(86歳)が角打ちを切り盛りする。
和子さんは元音楽教師という経歴の持ち主だ。
「私はおてんば娘だったけど、小さいころから歌が大好きで声楽を学んで音楽教師になりました。思い返せば波瀾万丈の人生だったわね」と語る和子さんが酒屋に嫁いだのは24才のとき。
「夫は中学の同級生だったのよ。造り酒屋の跡取り息子で、昔はこの店の向かいに立派なお屋敷がありました。結婚すると決めたけど、酒屋に嫁ぐことを親に反対されていましてね、結婚するんだったら音楽を続けることが条件だったんです。だから、酒屋の仕事は夫に任せて、私は音楽の仕事をしながら一生懸命ふたりの娘を育ててきました」
仕事と育児に奮闘する母の背中を見て育った長女の真紀さんは、「母の人生にはいつも音楽がありましたね」と振り返る。
「夫が49歳のときに他界しまして、一時期は店を閉めて途方に暮れていましたね。親の反対を押し切って結婚しましたから実家を頼るわけにもいきませんからね、酒屋をやろうと決心して、音楽の仕事を辞して、長女と一緒に酒屋を続けてきました」(和子さん)
尚弘さんも勤めていた会社を辞め、共に店を支えてきた。
「私は配達が中心ですから、角打ちはふたりに任せています。洗い物したり酒をついだりはしますけど、裏方ですよ(笑)。長年通ってくださる常連さんとゴルフに行くこともありますし、いろんなお客さんと交流できるのはいいですよね」(尚弘さん)。
「尚弘さんがいたからやってこられたわね。おかげで、教師と酒屋、人生を2度楽しめたわ」と和子さんは朗らかな笑顔で語る。
「次女は声楽の道に進みましてね、CDもリリースしているのよ」と和子さん。常連客がのんびり酒を傾ける店内には、次女が唄う懐かしい日本の童謡が静かに流れている。
「東京から転勤してきたのですが、この町に住むのは2度目なんです。駅近だから利便性もいいし、何よりこの店の近くに暮らしたくてね。仕事で疲れている日は、お母さん(和子さん)が『あらどうしたの?悩んでないで元気出しなさいよ~』って明るく声をかけてくれる。仕事帰りに『ただいま~』って帰って来られるホッとできる場所です」(40代、営業)
「和気藹々と飲める地元の温かい店。亡き先代の頃から通い歴40年、歌が上手で陽気なお母さん(和子さん)と優しい真紀ちゃんの手料理に癒やされて、1日の疲れも吹き飛ぶよ」(70才)
カウンターに並ぶ日替わりの大皿料理も人気だが、冬限定、和子さん特製の粕汁も大評判。
「今夜は、この冬の粕汁がメニューに登場する初日だから、真っ先に食べたくて1時間かけて来ました。アットホームな店で冬は粕汁をアテに飲むのが定番。上品な酒の香がふわっとして体が芯から温まるよ。毎回2杯は食べるね」(60代、会社員)」
「毎年、新酒の粕が届いてから作るようにしています。鮭はあらを使うと旨みが出ておいしいの。酒粕をおだしで溶いて、白みそが隠し味。大根や小芋さん(里芋)、こんにゃくや竹輪も入れてじっくり煮込むのよ」と和子さんはにっこり。
「まろやかな味わいの粕汁には、すっきり辛口の『焼酎ハイボール』が相性抜群。これは最高のご褒美やね」(70代)
2022年12月1日取材。
■橋本酒店
【住所】大阪府大阪市東淀川区東中島1-16-12
【電話番号】06-6322-6021
【営業時間】17時~20時、土日祝日定休
焼酎ハイボール350円、ビール大びん480円、粕汁350円、とり肝とピーマンの甘辛いため350円
※営業時間等は店舗にお問い合わせください。撮影時はマスク、及び仕切りを外しています。