サブスクでドラマや映画を楽しむのもいいが、時には読書をして本からさまざまなものを吸収するのもいいだろう。今読みたい新刊4冊を紹介する。
『この世の喜びよ』
井戸川射子/講談社/1650円
新芥川賞作家は高校の国語教師で中原中也賞の詩人でも。大型複合施設の喪服売場で働く中年の「あなた」。ゲーセン通いの老人やフードコートで時間を潰すお肌ツルピカ中3女子との交流に、「あなた」の“意識の流れ”が流入する。乳臭かったのに男で家出するほど大人になった長女、陽性の次女、学生時代の出来事や祖父母の姿、単身赴任の夫。手で掬った湧き水のような味わいだ。
『キャンセルカルチャー アメリカ、 貶めあう社会』
前嶋和弘/小学館/1760円
米国関連の報道に著者が登場すると嬉しくなる。誠実で熱いお人柄。キャンセルカルチャーとは保守派がリベラルを攻撃する言葉で、例えば過去の汚点が発覚した人物の銅像撤去を、伝統や文化を取り消す行為と冷笑する。保守はBLM運動や〈#MeToo〉も嫌悪。米社会の分断は深まる。が、これは過渡期だと。2045年には白人が過半数割れ。人口のバランス変化に希望を見いだす。
『暴虎の牙』
柚木裕子/角川文庫/上巻748円・下巻792円
毎回強烈キャラが登場する『孤狼の血』シリーズ完結編。昭和57年広島県呉原市のチンピラ沖虎彦は本物の極道達のシマを荒らし始める。沖の命を惜しむガミさん(大上刑事)は……。平成16年に出所して大上の墓に参る沖を迎えるのは日岡刑事。大上から日岡に受け継がれた組織外刑事魂、沖の再度の天下取りに絡む幼馴染との絆。完結編ながら余話に繋がる伏線も見え、また興奮。
『コラムニストになりたかった』
中野翠/新潮文庫/649円
コラムとは雑誌の小さめの囲み記事のこと。雑誌に自分の居場所を見つけた自称800字ライターだった翠さんが、お洋服、映画、落語、世間観察と、自分が本当に興味の持てるものに目覚めていく過程を年代記にする。『an・an』創刊の衝撃、連合赤軍、バブルやオウム真理教事件などの時代軸に、森茉莉、美空ひばり、中村勘三郎など忘れられない人の名も刻む(敏腕編集者の名も)。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年3月2・9日号