2月8日の発売以降、大反響の『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)。外交課題が山積するなかで、最近では中国の“偵察気球”が問題となった。生前の安倍氏は、中国の習近平・国家主席とどういった人間関係を築いてきたのか。
「もし米国に生まれていたら」
安倍氏は西側首脳の中で中国の習近平・国家主席という人物を最も長く観察してきた政治家でもある。
習氏が最高指導者に就任したのは2012年、奇しくも安倍氏が首相に返り咲いた年だ。当時は日中関係が最悪の時代で、2人が最初に会談したのは2年後の2014年11月に北京で開催されたAPEC首脳会議だったが、以後、2018年に訪中して7年ぶりの正式な日中首脳会談を行なうまでに、2人は毎年のように国際会議の際に会談を持った。
回顧録の中で、安倍氏は〈私の任期中、習近平はだんだんと自信を深めていった〉(以下、〈 〉内はすべて『安倍晋三回顧録』からの引用)と、その変化について興味深い観察を語っている。
〈習近平は、就任当初からしばらくは、日中首脳会談を開いても、事前に用意された発言要領を読むだけでした。トランプが米大統領に就任して最初の米中首脳会談でも、習近平は下を向いて原稿を読んでいたそうで、トランプが「なんだ、習近平という男は、あの程度か」と驚いたそうです。
ところが2018年頃から、ペーパーを読まず、自由に発言するようになっていました。中国国内に、自分の権力基盤を脅かすような存在はもういないと思い始めていたんじゃないかな〉
そして習氏は首脳会談で安倍氏に思いがけない本音をのぞかせた。
〈ある時、「自分がもし米国に生まれていたら、米国の共産党には入らないだろう。民主党か共和党に入党する」と言ったのです。(中略)この習近平の発言からすれば、彼は思想信条ではなく、政治権力を掌握するために共産党に入ったということになります。彼は強烈なリアリストなのです〉