テレビ東京ほかで放送中のドラマ『今夜すきやきだよ』(毎週金曜深夜)が好評だ。全くタイプの異なる太田あいこ(蓮佛美沙子)と、浅野ともこ(トリンドル玲奈)がともに暮らし、各々に働き、恋をして、悩みながら自分の足で一歩踏み出していこうとする物語。このあらすじだけを聞くとありふれた作品だと誤解されそうだ。ただこのドラマには、アロマンティック(他者に恋愛感情を抱かないセクシュアリティ)のこと、会社員または個人事業主として働くことの難しさ、生きづらさ、そして飯テロと、30分間では収まりきらないほどの要素を含んでいる。(取材・文/小林久乃)
自称・ドラマオタク。テレビドラマを見ている本数だけは誰にも負けないと自負する私が『すきやき』の物語の網に引っかかった。観ながらどこかに自分と共鳴できる部分を探そうとして、視聴後には心が癒された気分になった。なんだろう、この気持ちは。答えを探すべく、作品の担当プロデューサーに話を聞いた。
『チェリまほ』企画時は派遣社員だった
『今夜すきやきだよ(以下『すきやき』)』を担当するのは、テレビ東京の本間かなみプロデューサー(32)。ギャラクシー賞を受賞し映画化もされた“あの”『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年、以下『チェリまほ』)を企画・プロデュースし、大ヒットに導いた人物だ。実は『チェリまほ』当時、彼女は派遣社員として働いていた……という逸話も、作品と一緒に盛り上がった。
正社員でなくともプロデューサーになれるチャンスはある──そんなイノベーティブな出来事の実現は、1枚の企画書から始まったという。
「派遣社員として働いていた頃のドラマ室の室長がいつも言っていたんです。『ウチ(テレビ東京のドラマ室)は、企画が成立すれば誰でもプロデューサーになれる。だからやりたいと思うなら企画書をどんどん出していいからね』と。それまでいくつかのテレビ局や制作会社で働いていましたけれど、派遣社員である以上、自分は企画書なんて出せないと思っていました。対象外だと。だから室長の言葉は意外でしたし、ものすごく励みになりました」(本間P、以下同)
企画書を書いては落ちる日々が続いた
企画書を書き始めてすぐに『チェリまほ』に到達したのではない。
「約3年間は企画が落ち続ける日々でした。そのたびに企画書の書き方をアップデートしていきました。今もずっと心がけているのは、企画そのものにキャッチをつけることです。そして表紙は書籍のオビのような意識で作る。放送枠によっては提出できる企画書の枚数が決まっていることもあります。その枚数の中でどれだけ選考者に興味を惹けるか? あらすじまで読んでもらえるか? が勝負だと思っています。だからキャッチ以外にも時代とのマッチ性や、原作モノであれば具体的な反響など、客観的な目線や数字を強く押し出すようにしています」