医師から「血圧が基準値を超えたので、お薬出しますね」と言われて飲み始めると、一生薬を飲み続ける生活が待っている。そんな医学界の“常識”に異を唱え、「降圧剤は飲まないほうがいい」と説く薬剤師がいる──。
「基準値」への疑念
日本で「高血圧」の患者数は1000万人を超え、年々増加している。まさに“国民病”であり、処方される「降圧剤」は日本で最も多く消費される薬となった。厚労省の統計(2014年)によると、高血圧の薬だけで全薬剤の1割以上(金額ベース)を占めている。
降圧剤は数値を基準値内に収めることを目的に処方されるため、一度処方されたら“死ぬまで薬を飲み続ける”生活が続くことも少なくない。
だが、そうした薬ありきの対症療法の危険性を指摘する薬剤師がいる。著書『薬に頼らず血圧を下げる方法』がベストセラーになっている加藤雅俊氏だ。
食事や運動、東洋医学など多方面から病気にアプローチする「ホリスティック医学」の第一人者で、人間が本来持つ「自然治癒力」を働かせるための「薬に頼らず若々しく健康でいられる方法」を研究。モデルやプロアスリートのケアを担当するなど活躍し、著書は累計240万部を超える。加藤氏が言う。
「医師は患者の数値が悪ければすぐに薬を出そうとしますが、薬の大量処方は患者に副作用の問題を引き起こし、薬剤耐性ができてしまう懸念もあります。本来、医師の仕事は患者が病院に来なくていいようにすること。私は薬剤師の立場から、薬を卒業できる身体にするための様々な方法を提唱しています」(以下、「」内のコメントは加藤氏)
加藤氏が特に降圧剤の服用に疑問を呈する理由は、医学界が定める“基準値”への疑念からだ。
「1990年代まで、日本の高血圧の基準は上(収縮期血圧)が『年齢+90』とされていました。それが1999年にWHO(世界保健機関)などが140/90以上を『高血圧』と定義したら、日本高血圧学会もそれに倣ったのです。2019年には130/80とさらに厳しくなりました。
年齢が高いほど緩やかだった目標値も変わり、2003年からは高齢者にも若年層と同じ基準で降圧剤を処方することが学会で決められました。基準値を厳しくすることで新しく“病気”を作り、かつては健康体だった人まで薬のターゲットになってきたと感じています」
降圧剤の問題はほかにもある。高血圧は“心臓と脳を傷つけ重大な病気の原因となる”と言われるが、「様々な疫学調査で明らかなのは、高血圧ほど冠動脈疾患や脳卒中による死亡リスクが高いことであり、薬で血圧を下げれば患者が長生きできることを示すわけではない」と加藤氏は指摘する。