水道水をそのまま飲める国の数はたった12か国で、その1つが日本だ。水質基準は厳しく、味に影響を与えるカルシウムやナトリウムなどの含有量さえも決められている。しかし、いま異常事態が起きている。
東京西郊の多摩地区で、住民を不安に陥れる事態が発生した。発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)が2019年、東京都の調査で国分寺市の井戸から1Lあたり101ng(ナノグラム)検出されていた。この数値は、現在の暫定指針値の2倍以上だった。
PFASはどういった健康被害を引き起こすのか。科学ジャーナリストの植田武智さんが言う。
「アメリカの汚染地域で健康調査が行われ、2012年に次の病状との関連が確認されました。妊娠高血圧及び妊娠高血圧腎症、精巣がん、腎細胞がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、高コレステロール血症です。
特に懸念されるのは子供や胎児への影響です。北海道大学の調査によると汚染地域でなくとも母親の妊娠中のPFAS濃度が高いと生まれてきた子供に出生体重の減少、甲状腺ホルモンや性ホルモンの異常、免疫力低下、神経発達の遅延、脂質代謝異常などのリスクが上昇する可能性が指摘されています」(植田さん)
東京では横田基地が汚染源として疑われているが、多くの米軍基地を抱える沖縄県でも、高濃度のPFAS汚染被害が多数報告されている。
2021年6月、うるま市にある米軍の燃料保管施設で貯水槽の蓋から雨水が入り込み、PFASを含む水が基地の外に流出するという事故が起きた。その後、国が定める暫定指針値の約1700倍という高濃度のPFASが確認された。沖縄の米軍基地でも泡消火剤が使われており、各地でPFASが検出されている。決して“対岸の火事”ではないのだ。
環境省も、遅きに失したが重い腰を上げてはいる。2021年度の全国調査では、PFASのうち特に毒性が強いPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)が全国13都府県の81地点の河川や地下水などから国の暫定目標値を超えて検出されていたことが判明。環境省は暫定指針値の超過が確認された地点の水について飲用しないよう指導している。だが、直接飲まなくても私たちの体内に入ってくる場合がある。
「汚染された土壌で作られた農作物にPFASが含まれている可能性があります。ただ、植物の種類や根や葉、果実など部位による濃度の違いがあるほか、PFASの種類によっても蓄積しやすさが異なるようで、現在、研究中です。ただ、農作物を通して体にPFASが入り込んでくる可能性は充分にあり得ると想定した方がいい。
アメリカのメイン州では2022年に汚染の可能性が高い肥料の使用が禁止されました。国内でも大阪府摂津市の工場に隣接する農地の土壌や地下水から高濃度のPFASが検出された例がある。水道水に地下水は使われていないのに、農地の耕作者の血中から高い数値のPFASが検出されています」(植田さん)