迷惑行為の動画が次々にSNSで拡散され、話題に事欠かない回転寿司。業界シェアのほとんどを占める「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」「かっぱ寿司」の4社の競争は苛烈を極める。そんななか、はま寿司の“至高の秘密”を盗んでかっぱ寿司に提供した男の裁判が幕を開けた。
法廷の重い扉が開くと、黒いスーツに白いシャツ、紺色のネクタイを締めた男が静かに入ってきた。2月1日、東京地方裁判所に姿を現したのは、「かっぱ寿司」の運営会社「カッパ・クリエイト」(以下・カッパ社)の前社長、田邊公己被告(46才)。この日、法廷で彼が語ったのは、古巣であり、はま寿司の親会社「ゼンショーホールディングス」(以下・ゼンショー)への恨み節だった。
田邊被告は、はま寿司の営業秘密を不正に入手し、転職先のカッパ社の業務で使用したとして、2022年10月に不正競争防止法違反罪で起訴された。
事の発端は、2020年夏に遡る。当時、田邊被告はゼンショーで事業推進本部長だったが、転職を考えていたという。
「2020年8月の段階で、田邊被告はカッパ社の内定をもらっていました。顧問を経て、ゆくゆくは副社長にという話があったそうです。
転職を機に彼は“計画”を思いついたのでしょう。元部下に依頼し、はま寿司の仕入れデータや原価データなどを入手した。問題となったデータにはパスワードがかけられ、限られた社員しかアクセスのできない仕様になっていました」(全国紙社会部記者)
同年11月、田邊被告はカッパ社の顧問に、12月には副社長に就任した。その裏で、持ち出したはま寿司のデータをカッパ社の幹部複数人にメールで共有。商品部長で、同じく不正競争防止法違反罪に問われている大友英昭被告(43才)には、かっぱ寿司とはま寿司のネタの原価を比較する資料を作成させたという。
その後、田邊被告は2021年2月にカッパ社の14代目社長に就任し、業績は好調だったものの、2022年9月、不正競争防止法違反の疑いで逮捕された。転職から2年足らずの出来事だった。
彼の経歴は実に華々しい。
1998年にゼンショーに入社し、2014年に38才の若さで、はま寿司の取締役に抜擢された。その後、ゼンショー傘下の「ジョリーパスタ」や「ココスジャパン」といったファミリーレストランチェーンで社長を歴任した。
「本人の話によると、国民的牛丼チェーンの『すき家』において、従業員教育の仕組みを構築したほか、従業員が牛丼を盛りつけるために使う『牛丼おたま』を開発したそうです。また『ウェンディーズバーガー』では30年以上の赤字を2年ほどで黒字化し、『はま寿司』では新規店を400店舗増やしたとか。彼は公判で『僭越ですが私は(ゼンショーで)力を発揮、特化できていたと思います』と自信をのぞかせていました」(前出・全国紙社会部記者)