昨日会った人の名前が思い出せない、最近めっきり疲れやすくなった──そういった状態に陥れば「年のせい」と思うはず。しかし、その症状はのんでいる薬のせいかもしれない。簡単に手に入る市販薬でも、脳を老化させるリスクを伴うものはある。薬剤師の三上彰貴子さんは、酸化マグネシウムを主成分とした便秘薬を漫然と服用することに伴う危険性を指摘する。
「腸に水分を集めて便を軟らかくする酸化マグネシウムは、腸を刺激して排便を促す刺激性の薬と比較して安全性が高いといわれています。しかし長期にわたってのみ続けると、血液中のマグネシウムが高くなる『高マグネシウム血症』になることがある。吐き気のほか、頭がぼんやりして倦怠感を感じるなど、認知機能の低下に類似した症状が現れるのが特徴で、特に合併症がある場合には最悪、命を落とす危険性もあります」(三上さん)
訪問診療で減薬に取り組む医師で、たかせクリニック理事長の高瀬義昌さんは、胃薬が認知機能の低下を招くことがあると指摘する。
「胃酸の分泌を抑えて胃痛を取る『H2ブロッカー』には注意が必要です。認知機能が低下する副作用を持つ抗ヒスタミン薬の一種で、市販薬としても販売されていますが、高齢者がのむと特に強く副作用が出ることがある。実際、せん妄から錯乱状態になり、1日20回も病院に電話をかけてきた患者がこの薬をやめて平常の状態に戻った事例がありました」
注意すべきは、のみ合わせによってさらに強く副作用が出るケースだ。
「この時期は花粉症対策で薬をのんでいる人が多いですが、花粉症の薬に多い抗ヒスタミン薬と、胃の過度な働きを抑える胃薬などを併用すると両方の薬に認知機能を低下させる可能性の高い抗コリン作用があるため、相乗効果で副作用がより強く出やすい。特に年を重ねた人は、市販薬を買う前に薬局で相談してください」(三上さん)
胃薬と同様、日常的に利用する機会が多い鎮痛薬の中にも注意が必要なものがある。
「アスピリンやイブプロフェンなどの鎮痛薬でも、新しいことを覚えられなくなる記銘力障害や認知機能障害、せん妄をきたす可能性があることが報告されています」(三上さん)
自然由来の漢方も、のみ方を間違えると、老化のような症状がみられることがある。三上さんが続ける。
「風邪症状や胃痛、こむら返りなどに効くとされるポピュラーな漢方薬に含まれる『甘草』は過剰摂取すると血液中のカリウムの濃度が低くなる『偽アルドステロン症』を発症するおそれがあります。血圧が上がったり認知機能や筋力が低下し、手足のしびれや倦怠感、むくみなど老化に類似した症状が次々に現れます。
甘草は、1日7.5gを超えると副作用が出やすくなるといわれていますが、約8割の漢方に入っているため、自己判断で何種類も漢方をのんでいる場合には甘草が重複して、気がつかないうちに大量摂取しているケースも少なくありません」
※女性セブン2023年3月16日号