朝晩はまだまだ寒いが、日中は暖かい日が増えている昨今。暖房を消した部屋で読書を楽しんではいかがだろうか。おすすめの新刊4冊を紹介する。
『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』/小野一光/文藝春秋/2420円
祖父が逃げてきた17才の孫娘に訊く。「お父さん、死んでおらんのやないか?」。泣き崩れる彼女。2002年こうして凄惨な「北九州監禁連続殺人事件」が発覚。逮捕されたのは当時40才の松永太と内縁の妻緒方純子。冒頭の父親と緒方の親族6名が消えた死体なき大量殺人だった。この全貌を独自取材や検察の論告書、判決文などで再現。死刑囚松永のサイコパスぶりに言葉も出ない。
『真珠とダイヤモンド』/桐野夏生/毎日新聞出版/上巻1760円/下巻1650円
円高の1986年、証券会社の福岡支店に現地採用された18才の伊東水矢子と20才の小島佳那。地価も上昇していく中、水矢子は地道に貯金して大学進学を、佳那は株や投資信託を扱って自由な生活を手に入れようとしていた。同期の望月昭平しかり。下巻の舞台はブランド品やディスコ、シャンパンの泡煌めく東京へ。冒頭とラストのコロナ禍の闇夜が同期男女3人の一炊の夢を包む。
『脳の闇』/中野信子/新潮新書/946円
中野信子さんって脳科学界の養老孟司先生みたいだなあと思う。書き手の高IQについていけてない不全感が拭えず……。気を取り直して書くと、承認欲求、脳は自由を嫌う、正義中毒など現代を批評的に読み解く。共感したのは「ブレない人」や「ポジティブ思考」への懐疑。「迷うことのほうがずっと高度で美しい機能」、後者では「不自然で息が詰まる」と。ホッとしますね。
『口福のレシピ』原田ひ香/小学館文庫/792円
有名料理学校の跡継ぎであるのが重荷で、家を出て自分の道を切り拓こうとしている留希子。SNSに投稿した時短料理も好評で、フリーの料理家として仕事も来るようになった矢先、豚のショウガ焼きを巡って実家(学校)に訴えられそうに!? 西洋料理が普及していく時代に旦那様に抜擢された女中さん「しずえ」を描く挿入シーンが素敵。過去と現代を結ぶ家族の歴史にウルッ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年3月16日号