内装デザイナーで高収入でも家事が苦手、恋愛体質の太田あいこ(蓮佛美沙子)。スランプ気味の絵本作家でアロマンティック(他者に恋愛感情を抱かないセクシュアリティ)を自認する浅野ともこ(トリンドル玲奈)。このふたりが共同生活を送り、それぞれの生き方を見つけていく『今夜すきやきだよ』(テレビ東京ほか、毎週金曜深夜)が好評放送中だ。同作について担当プロデューサーに話を聞いた。(取材・文/小林久乃)
とにかくこのドラマには、現代社会を映した魅力的なコンテンツが詰まっている。女性のふたり暮らし以外にも、ともこが作る深夜ドラマには危険な飯テロシーンがあったり、働く女性が「仕事が思うように進まない」と悩んだり……。年がら年中テレビを観ているオタクから言わせると、この手のドラマは物語が散漫になってしまうパターンが多い。が、『すきやき』にそのパターンは当てはまらないようだ。独特な世界観が漂う同作には、一体どんなコンセプトが眠るのか。若き担当プロデューサーの本間かなみさん(32)にインタビューした。
キーワードは「共生」
本間Pはこれまでに『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年、以下『チェリまほ』)、『うきわ ─友達以上、不倫未満─』(2021年)など、女性人気の高い作品を次々に制作してきた。今回の『すきやき』にも通じるのは、それらが漫画原作であること。実は本間P、漫画が大好きだそう。
「最初に谷口菜津子さんの『今夜すきやきだよ』を読んだ時も、ただのイチ読者でした。読み終わった後に、すごくエンパワーメントをされて……そう、シンプルに元気が出たんです。あいこちゃんと、ともこちゃんに会いたくなりました。その後、ちょうど社内の企画募集がかかったので『これだ!』と思って企画書を書きました」(本間P、以下同)
物語を彩る要素がとても多い『すきやき』だが、プロデューサーとして考える本作の大テーマとは何だろうか?
「それは“共生”です。あいことともこはまるで正反対のタイプ(性格)でも、良きパートナー関係を築いている。あいことその恋人のゆきくん(鈴木仁)は恋愛関係があっても、100%理解しあうことはできない。原作で描かれているさまざまな“共生”の形があること、その“共生”がもつ希望をドラマでも描きたかったのです。
この“共生”という言葉を作品のテーマとして意識したのは、韓国の映画配給会社スタッフの言葉がきっかけです。映画『チェリまほ』の仕事で韓国へ行った時、彼らといろんな話をしたんですが、その中で『よく理解を進めようって言葉を聞くけど、大事なのは理解できない人たちの理解を待つことじゃない。この世界には、理解できなくても認めざるを得ないことがあるんだから』と言っていたことが、ずっと残っていました。
それまでは『人と人はきっと分かり合える。私はそうでありたい』と、思っていました。でも同時に、その難しさも感じていて……。理解し合えなかった時の、その先が見えなかったんです。だけど前出のスタッフの言葉(=意見)を聞いて変わりました。理解ができなくても認めること、それがあらゆる他者と生きていく中で、大切なことなんじゃないかと思ったんです」