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「震災から12年間、生き延びることだけ考えてきた」漁師、ボクシング、飲食店「三足の草鞋」で奮闘する被災地の50歳

震災後に漁師になった阿部さん

震災後に漁師になった阿部さん

 宮城県は仙台市・蒲生には震災の爪痕が残る。現在の人口は2000人ほどといわれており、2011年3月11日時点の10分の1ほどしかこの地で生活していない。未だ故郷に戻れない被災者が多いなか、奮闘する男が一人。阿部忠彦さん(50)だ。

 阿部さんは漁師である傍ら、ボクシングジムを経営、さらに飲食店も営んでいる。この12年間は茨の道だったと重い口を開いた。

「当時は自動車工場とレストランを経営していたけど、津波でほぼ全壊して。自宅じゃなかったから震災の義援金も支援金も補助が出なかった。目の前が真っ暗になり途方に暮れました。だから、その後のことはあまり憶えてねえんだ。生きていくことで必死でさ」(阿部さん)

 蒲生地区は海の近くに位置しており、東日本大震災による10メートルを超える津波の直撃で甚大な被害を受けた。近くには東北地方の産業と経済を支える仙台国際港があり、保管されていたコンテナや材木等が多数散乱し、一部は海上に流出、火災も発生するなど惨状を極めた。港湾施設の被害額は1億円を超える。

 阿部さんは娘3人と妻、両親を含めた家族全員が無事だったことで安堵したそう。だが、工場は売り上げが落ち込み辛酸を舐めた。一計を案じた阿部さんはある日突然、妻の幸子さんに「俺、漁師ができそうな気がする」と宣言して知り合いの漁師に弟子入り。雇われ船頭から漁船「拳信丸」を購入して漁師になった。2013年のことである。

 早朝午前5時半、阿部さんは宮城県名産として知られる赤貝の漁場を目指して船を走らせる。この日は赤貝のほかにカニ、ヒラメ、カレイ、シャコなどが揚がり、「上々だ」と漏らしながら午前11時過ぎに漁を引き上げた。収穫物を選別したのち市場に出して海の仕事が終わる。

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