岸田文雄・首相は池田勇人氏、宮沢喜一氏に続いて広島県が輩出した戦後3人目の総理大臣だ。ことあるごとに広島をアピールし、5月のサミットもG7の首脳全員を初めて原爆被爆地ヒロシマに招く。
だが、本誌・週刊ポスト記者が現地を取材すると、首相の「広島愛」を疑問視する本音が聞かれた。元中国放送社長で広島市長を務めた地元政界の大長老・平岡敬氏(95)が語ってくれた。岸田首相の父・文武氏が政界入りした時からの支援者で、息子の文雄氏を見守ってきた人物でもある。
「岸田さんは外務大臣を4年8か月も務めたが、その時に、世界と渡り合えるだけの力量をつけることができたのだろうか。私は広島市長時代、世界の外交官たちと交流してその教養の深さにたびたび驚かされた。
広島出身のかつての総理、池田勇人さん、宮沢喜一さんはそうした教養が見えていた。いずれも日米講和条約の交渉を担い、戦後の日本を背負ってきた政治家としての哲学があったし、広島出身の政治家として日本の平和主義を貫いていたと思う。しかし、岸田総理には、そうした哲学が見えない。
彼が『核なき世界』を掲げて総理になった時には、正直、期待していました。しかし、いろんな意味で裏切られることになった。所得倍増は資産所得倍増にすり替えられ、軍事費倍増になってしまった。安保関連三文書に関しては、専守防衛を捨て去って、敵基地攻撃能力保有を明記した。安倍首相よりすごいことを次々とやってのけている。言葉が軽いですよね。思慮が足りない。
安保関連の三文書ですが、国内向けだけで、それを見た海外がどのように反応するのかなどは見ていない。彼の中で歴史と地理という座標軸はないのか。現在、岸田政権は低支持率にあえいでいる。そんな中、政権浮揚のために広島サミットを利用しようとするなら、それは絶対にやめてほしい」
岸田首相は父の恩人の声をどう聞くのか。
※週刊ポスト2023年3月24日号