非常にハイレベルな文武両道を体現するのが「東大野球部」だ。日本最高峰の大学でありながら、数多くのプロ野球選手を輩出する「東京六大学野球連盟」に所属している。優勝経験はなく毎シーズン苦戦を強いられているが、他大学との実力差を埋めるべく持ち前の頭脳を使った練習に取り組んでいる。そんな東大野球部が3月4日、創部以来“最大の難敵”に挑んだ。プロ野球・ソフトバンクホークスの3軍と対戦したのだ。どんな戦略で臨むのか、そして結果は──。自身も東大OBのジャーナリスト・相澤冬樹氏がレポートする。
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大会にはWBC出場国の代表も参加
「ほらほら、あの人、ドラ1(イチ)、ドラ1!」
プロ野球・福岡ソフトバンクホークスの2019年ドラフト1位指名、佐藤直樹選手が試合前に練習場で体をほぐしている。その姿を遠目に見つめながら興奮気味に言葉を交わしているのは、東京大学運動会硬式野球部の選手たちだ(運動会は他大学の体育会にあたる)。東大生であろうと、野球部員にとってプロ野球選手は“雲の上”の存在だ。しかも彼らはこれから、その憧れのプロ球団と試合に臨むのである。
プロとアマの対戦は、なぜ実現したのか? この時期、九州各地で温暖な気候を求めて学生・社会人・プロを問わず様々な野球チームが春季キャンプを張る。そうしたチームに呼びかけて所属リーグの垣根を越えた夢の交流戦を実現しようと、鹿児島県で今年2~3月にかけて「薩摩おいどんカップ」が初めて開催された。
大学と社会人チームのほか、プロ野球から巨人とソフトバンク、さらには今注目のWBCのため来日した中国代表まで加わり、総勢37チームが参加。その一環として東京大学とソフトバンクの3軍の試合が3月4日に行われることになった。これは注目の一戦だ。
東大野球部は、所属する東京六大学リーグで20年以上、最下位が定位置になっている。高校野球の強豪選手を擁する他大学とはどうしても厳しい戦いになる。そんな中、今年の主将・梅林浩大内野手は東大には珍しく、高校時代に春のセンバツ野球大会でベンチ入りした甲子園経験者である。今回のプロ球団との対戦をどう受け止めているのか。
「ぼくらはみんな野球が好きで野球部に入ってきていますので、こんなカードを組んでいただけたっていうのがすごく楽しみです。プロと対戦なんてもちろん初めての経験ですし、なかなか緊張する場面でもありますね。自分たちがプロを相手にどれくらい力を出せるのか不安もあります」(梅林選手)
梅林選手が考える東大野球の持ち味はどういう点にあるのだろうか。そして、プロの対戦という珍しい状況でどういった「目標」を設定しているのか。
「足っていうのが強みというか、それだったら他大学にも対抗できるんじゃないかっていうことで2年くらい前から走塁練習に力を入れています。最近は六大学でも警戒され始めてるんで、きょうの試合でも足を使って(盗塁して)いきたい。相手がプロなのでどれくらい走らせてくれるかわかりませんが、積極的にいこうと思います。プロ相手に厳しいとは思いますけど、もしかしたら勝てるかもしれないという気持ちは持ちたいですね」(梅林選手)