95回目の記念大会となったセンバツの大会3日目は、第3試合に優勝候補の大本命にして、高校野球界に一強時代を築く大阪桐蔭が登場する。同校の大黒柱はもちろん、今秋のドラフト1位候補の左腕・前田悠伍だ。昨春は全国制覇の立役者となり、昨夏は準決勝・下関国際(山口戦)の1点リードで迎えた9回に逆転打を浴び、春夏連覇を逃して大粒の涙を落とした。主将として臨む3度目の甲子園を前に、前田は言った。
「去年の悔しさは一日も忘れなかった。これまでの甲子園は(下級生として)のびのびやっているだけだったけど、今回は自分が引っ張っていかないといけない立場になる。ただ、それを意識し過ぎても独りよがりになるので、チームの勝利のために優先すべきことを考えて準備したい」
一昨年の秋に前田の投球を目の当たりにして以来、これまで春4回、夏5回の甲子園制覇を誇り、数多のプロ野球選手を輩出してきた大阪桐蔭にあって、前田こそ同校史上最強の左腕、いや歴代最高の投手ではないか――と筆者は先走って主張し続けてきた。
昨年の春、初めて甲子園のマウンドに立った時から既にもう幾度も聖地を経験しているかのような立ち居振る舞いで、浮き足立つようなことも、コントロールを乱すようなシーンもなかった。右打者のインコースにズバッと直球をクロスファイヤーで投げ込んだかと思えば、外に逃げていくチェンジアップで空振りを奪う。左打者にもスライダー、ツーシームと変化球を器用に投げ分けていく。剛柔併せ持つ投手といえた。
もし前田のピッチングを生で見たことがないという高校野球ファンは、バックネット裏に陣取ればその球威と球筋、制球力を体感できるはずだが、一塁側のスタンドから観戦するのもオススメだ。一塁に走者を置いた前田は、投球フォームに入ってからも、走者に一度、二度と視線を送って塁上に釘付けにし、時に素速い牽制でアウトにする。走者を困惑させる牽制技術を対戦校も熟知しているからこそ、前田は打者に投げているのに、走者がいったんベースに戻るような間の抜けたシーンも頻繁に起こる。橋本翔太郎コーチによると、前田の牽制技術は「高校入学の時点で完成されていた」という。