JR新長田駅から徒歩7分、神戸市営地下鉄駒ヶ林駅からは5分、“ろっけんみち”と呼ばれ、戦争や震災を乗り越えた商店街からすぐのところに店を構え、地元の人たちに愛され続ける『永井酒店』。
「下町イチのべっぴんさん」と常連客に評される2代目店主の大嶋栄子さん(90歳)が療養中のため、店主に代わって息子の康嗣さん(66歳)が店を切り盛りしている。
『永井酒店』は、先代が酒や米を扱う商店として大正末期に創業した老舗。現在は、米穀販売は止めて、角打ちとして営業中だ。
「お客さまに慕われる母がずっと店を盛り立てて来ました。ここは古い建物ですが、父(先代)が鉄骨を入れて建てていたこともあって、阪神・淡路大震災のときにも倒壊しませんでした。あのときは、この辺り一帯、火の海でしたが、奇跡的に店は無事だったんです。店の手前で風向きが変わったのかは、わからないのですが。火の手がここだけ避けて通ったなんていわれていましてね。母は強運の持ち主なのかもしれません」(康嗣さん)
営業開始時間を迎えるやいなや、年季の入った若竹色の暖簾をくぐり「また来たで~」(70代)と明るい声の客がやって来たのを皮切りに、次々と地元客が訪れる。
長年、この店で働く女性たちが、奥の調理場で仕込んだ、できたて熱々の料理が、続々とカウンターに並べられていく。
「料理上手なお姉さんたちがチャキチャキ働いとって元気もらえるよ」(70代)と常連客が昼からご機嫌な様子で酒を傾けている。
「料理は、どれも昔から奥さん(店主)直伝のレシピやね。奥さんは、お洒落な人で、皇室御用達のお帽子とか、ジュンアシダのプレタポルテ着てはってな。そういう私らも、今日は示し合わせたわけじゃないけどみんなお洒落な花柄やな(笑い)。花があってええやろ?」(この店でパート勤務の50代女性)
「毎日お昼ご飯食べにきて一杯ひっかけるのが楽しみで、いつも同じ時刻に通っとる。まるでタイムカードがあるみたいやな(笑い)。
いろんなメニューが並んでるから、今日は何にしようかな~って毎日ワクワクするよね。熱々の揚げものもいいし、焼きそばやウインナーとか素朴な家庭料理も旨い」(70代)
「くじらのおばけ(尻尾、背びれの部分)な、これも酒のつまみとしてよう合うで。弾力のある食感でちょっと甘めの酢味噌がかかってて旨い。冬場は関東(かんと)炊き(おでん)で一杯飲むのもいいね。この店の味付けはあっさりしているからわしら年配にちょうどえぇな」(60代)