薬の副作用は、決して無視できるものではない。医師から処方された薬をなんとなく飲み続けることが、健康に悪影響をもたらすこともある。
歳を重ねるほど処方されやすいとされるのが、不眠症治療や抗不安薬として用いられるエチゾラムだ。その副作用も知っておく必要があるだろう。65歳以上の多剤併用に警鐘を鳴らした厚労省『高齢者の医薬品適正使用の指針』(2018年)の作成メンバーにも名を連ねた在宅診療医の高瀬義昌医師(在宅療養支援診療所たかせクリニック理事長)は、エチゾラムを「高齢者に処方するのは避けるべき」と指摘する。その最大の理由は、副作用として出やすい「せん妄」にあるという。
「『眠れない』などと訴えると処方されますが、ベンゾジアゼピン受容体作動性睡眠薬であるエチゾラムは短時間で作用が切れるため、チェーンスモーキングのように服用しがちです。その耐性・依存性により、高齢者が飲み続けることで『せん妄』や足のふらつきが起きやすくなる。
せん妄による見当識障害(状況がわからなくなる症状)は、特に認知症の高齢者ほど起きやすいので注意が必要です。私も66歳になり少し眠れなくなってきましたが、もし病院でエチゾラムが出されたら、そこには絶対行きません」
医薬品の安全承認などを手掛けるPMDA(医薬品医療機器総合機構)で審査専門員を務めた経歴を持つ谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎)も同様の見解だという。
「エチゾラムの依存性の高さや副作用のリスクは近年ようやく日本でも問題として認識されるようになりました。しかし、昔から飲んでいる高齢の患者さんは『これなしでは眠れない』とやめたがらない方が多く、医師としても悩みどころが多い薬です」
在宅診療で高齢の患者を多く受け持つ高瀬医師は、不眠を訴える患者にどう指導しているのか。
「眠りが浅いと訴える高齢の方は、夜7時頃から寝ている場合があります。それで夜中に目が覚めるのは当然なので、まず『遅寝・早起き』の睡眠衛生指導が重要です。それでも『薬がないと眠れない』場合は、漢方薬の抑肝散や、副作用の少ない新しい不眠症治療薬デエビゴ、抗うつ薬トラゾドンなどの処方から始めます」(高瀬医師)