ようやく日本もマスクをつけずに出歩ける。それに合わせて話題になっているのが、久しぶりに人に見せる素顔をどう整えるかという問題だ。口紅やファンデーションなどの売上が伸びていると言われるなか、美容整形についても話題が集まっている。若年層では特に抵抗が薄くなっているなか、とくに未成年者の美容整形をめぐる混乱について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
* * *
「美容整形」に対する世間の認識の変化を、これほどまでに感じたことはない。
つい先日、大手美容クリニックが首都圏を走る電車内に貼り出した広告が、女子高生をターゲットにしたと思われる内容だったことがネット上でも話題になった。この件については批判も少なくなかったが、宣伝の対象である高校生たちは、何をそんなに騒いでいるのだろうと不思議に思っているかもしれない。というのも、未成年女性の多くが利用するSNSには、今も大手中小の多くの美容クリニックの広告が普通に表示されるからだ。対象者が未成年ではなくとも、福岡県や神奈川県の自治体では、ふるさと納税の返礼品に「美容整形」が並んでいるくらいなので、身近なものとして認識する人の数は急増しているのだろう。
十数年前、若い女性向け雑誌の編集者だった筆者は、あまり有名でない読者モデル達が美容クリニックや広告代理店の仲介で無料、もしくは格安で次々に美容整形手術を受けていることを知り、大きな衝撃を受けた。モデル達の何人かは、クリニックの広告に出演する条件を飲んでいたり、数万~数十万円のギャラを受け取っていた。中には広告であることを隠した宣伝、いわゆる”ステマ”も存在した。当時の彼女たちは美容整形をした事実を隠したり、恥ずかしがったりするモデルの方が多く、「整形をした」などと今ほどカジュアルに打ち明けられない空気があった。
それから約十年、美容整形をめぐる女性たちの受け止め方は、大きく変わった。
かつて、美容整形の仕事を引き受けるのは読者モデルのなかでも、知る人ぞ知るような存在に限られており、ネット掲示板では「モデルの誰々が顔をいじった」などとすぐに噂が立つような状況だった。それが徐々に拡大し、有名読者モデルが加わり、テレビにも出演する有名タレントにまで及ぶと、当事者も周囲の人たちも美容整形に対する抵抗感が薄れてゆくのが傍目にも伝わった。「やってはいけないこと」ととらえる空気が、確かに薄れていったのだ。この急激な変化が、若い女性とその親世代の間に認識の差を生み、両者を困惑させている。