G7各国首脳の中で唯一ウクライナを訪問していなかった岸田文雄・首相にとっては悲願でもあり、“英断”をアピールする絶好のチャンスでもあったはずだった。だが、3月21日、電撃訪問を果たした岸田首相に向けられた反応はというと──。
岸田のためのキーウ訪問
なんとも間抜けな第一報だった。
〈岸田総理がウクライナを電撃訪問〉
TBSで速報テロップが流れたのは、ちょうどWBC準決勝の日本―メキシコ戦の9回裏。日本の最年少三冠王ながら不調に喘ぐ“村神様”こと村上宗隆が打席に立とうとする瞬間だった。
日本中が固唾をのんで見守った中継の瞬間最高視聴率は47.7%を記録していた。だが、テロップは一瞬で消え、岸田首相が目論んだ“外交的得点”は直後の村上の逆転サヨナラ打の歓喜の渦にかき消された―─。テレビ各局はその後のニュースでも、日本代表の決勝進出のほうを大きく報じ続けた。
まさに岸田首相の間の悪さを象徴する出来事だった。
日本時間でその夜、ウクライナの首都キーウを訪れた岸田首相は、ロシア軍に多数の民間人が殺害されたとされる近郊のブチャの集団埋葬地で献花を行なった後、ゼレンスキー大統領と会談して4億7000万ドルの支援を表明、大統領から「フミオ」と呼びかけられて満更でもない表情だった。
その後の共同記者会見では、首相は日本とウクライナの「情報保護協定」締結に向けた調整を始めると表明した。
政治アナリストの伊藤惇夫氏は、“岸田首相のためのキーウ訪問”だったと見る。
「岸田総理は5月の広島サミットで議長を務めることを人生最大の晴れ舞台だと考えています。それだけに、自分だけウクライナ訪問できていないことは屈辱的に感じていた。だから今回のウクライナ訪問は、明らかに自らのメンツを保つためのもの。それが動機と言って間違いないでしょう。
岸田総理が打ち上げた情報保護協定についても、ウクライナにとって対ロ作戦に加わるわけでもなく、軍事支援も行なえない日本との情報保護協定に何の意味があるのか。キーウ訪問で支持率を上げたい岸田総理が、国内向けに“日本が米国やNATOと同様の立場になる”という成果を大げさにアピールしているだけです」
※週刊ポスト2023年4月7・14日号